売り手市場が過熱している昨今の人材市場。転職先がほぼ確定している優秀な人材に対して、別の企業から好待遇のオファーが届くといったこともめずらしくありません。オファーが届いた求職者は悩み、最終的に転職が先延ばしになることも。こうした状況は求職者・企業の双方にとって損失に繋がってしまうと、東京エグゼクティブ・サーチの代表取締役社長・福留拓人氏はいいます。そこで今回は、入社時期の引き延ばしをしてはいけない理由について福留氏が解説します。
「内定を受けた後も魅力的なオファーが続々」「今の会社から猛烈な引き留め」で転職を決めきれない…それでも“入社時期の先延ばし”は絶対するべきではない納得の理由【人材のプロが助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

水面下で「転職活動を継続している」ケース

1つ目。先ほど触れたように、内定受諾の書面にサインした後に本人を迷わせる魅力的な案件が次々現れていることで、水面下で転職活動を継続しているケースが見られます。

 

“本命はあくまでもサインをした会社”であると本人も自分に言い聞かせ、そう自覚しているつもりなのですが、次々現れる魅力的な企業にどうしても踏ん切りをつけることができず、面接に出かけるなどしてしまいます。

 

そして、いざ面接を受けてみると、ことのほか話が弾みます。魅力的なオファーにつながる可能性も感じられ、転職活動をぐるぐると継続してしまうのです。ポジションが高位であればあるほど選考も慎重に進められますから、時間も長くかかりがちです。

 

さらに選考の段階が進めば、その企業からは「他社からのオファーの状況はいかがですか」「他にお受けになっている会社はありますか」という質問が投げかけられます。そうなると、全部とは言わなくても、ある程度、今受けているオファーの金額を伝えることになります。

 

そのオファーに負けない金額を用意しようとする企業がさらに時間を掛けて準備しようとしますから、どんどん転職の時期が延びていくことになります。ご本人はどちらの企業にも露見しないと思っていますし、もちろん個人情報は保護されるので、最終的にはどの会社を受けたか明るみに出ることはないかもしれません。

 

しかし、候補者がネームバリューのある人物で、どこかの会社に入ったあとに大活躍すれば、辞退された側の会社が気づくことはあるかもしれません。この場合、露見する・しないということよりも、どこかで信用を失うことになると思われます。ですから、職業選択の自由があるといっても、どこかで筋を通すことを心がけたいものです。

 

どんなに人材市場が過熱して候補者に有利な状況になっても、道義的、倫理的な規範をまったく無視して生涯のキャリアを進んで行けるというほど世のなかは甘いものではありません。法律的な縛りはありませんが、因果応報とならないように、放逸はほどほどにすることをおすすめします。