関東甲信地方の「遅い梅雨入り」「早い梅雨明け」が景気に与える影響【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】

景気の予告信号灯としての身近なデータ(2024年7月22日)

関東甲信地方の「遅い梅雨入り」「早い梅雨明け」が景気に与える影響【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】
(※画像はイメージです/PIXTA)

景気の予告信号灯となる身近なデータとして、今回は関東甲信地方の梅雨入り・梅雨明け、東京の真夏日、熱帯夜を取り上げます。関東甲信地方の「遅い梅雨入り、早い梅雨明け」は景気にどう影響を与えるのでしょうか? エコノミスト・宅森昭吉氏が解説します。

2024年の関東甲信地方の梅雨入りは平年より14日遅い6月21日。梅雨明けは平年より1日早い7月18日

関東甲信地方の2024年の梅雨入りを6月21日と気象庁が東海、近畿地方と一緒に速報値として発表しました。関東甲信の梅雨入りは平年より14日遅く、昨年より13日遅くなりました。関東甲信でこれまで最も遅かった梅雨入りは1967年と2007年の22日ごろだったので、梅雨入りのタイミングとしては「過去2番目の遅さとなった」と報じられました。

 

梅雨入りが遅くなった理由は、日本付近への太平洋高気圧の張り出しが例年と比べて弱かったためです。通常、梅雨前線は太平洋高気圧に押し上げられる形で日本列島に近づきますが、今年はなかなか北上しませんでした。大陸から吹く偏西風が日本上空で南に大きく蛇行していることも梅雨前線の北上を押しとどめる一因となったようです。

 

また、関東甲信地方の2024年の梅雨明けを7月18日と気象庁が、東海地方と一緒に速報値として発表しました。平年より1日早く、昨年より4日早くなりました。今年は梅雨入りが遅かったため、梅雨の日数は平年と比べると3分の2ほどの短い梅雨になりました。

 

[図表1]令和6年の梅雨入り(速報値)/令和6年の梅雨明け(速報値)

現在は平常の状態だが、今秋にかけては猛暑につながりやすいラニーニャ現象が発生する可能性の方が高い状況

今夏は梅雨明け後の猛暑に警戒が必要だと言われています。現状は、エルニーニョ現象もラニーニャ現象も発生していない平常の状態になっているとみられますが、今秋にかけては平常状態が継続するよりも、南米ペルー沖の海面水温が下がり、日本の猛暑につながりやすいラニーニャ現象が発生する可能性の方が高い状況です。気候変動の影響も重なり、23年に続いて記録的な暑さが長引く恐れがあります。

 

[図表2]気象庁・エルニーニョ監視指数/旬ごとの海面水温基準値偏差

 

[図表3]エルニーニョ監視速報(No.382)令和6年7月10日

関東甲信地方で「梅雨入りが遅く梅雨明けが早い」年は、「梅雨入りが早く梅雨明けが遅い」年に比べ、景気拡張局面に当たる確率が高い

今年の関東甲信地方では「梅雨入りは遅く、梅雨明けは早く」なりました。1951年~2023年の73年間で、梅雨入りが遅く、梅雨明けが早かった年は19回。そのうち、景気拡張期間に当たったのは16回でした。景気拡張期間の確率は84%と、景気が良いことが多くなっています。真逆の、梅雨入りが早く、梅雨明けが遅かった年は13回。そのうち、景気拡張期間に当たったのは7回でした。景気拡張期間の確率は54%と、景気が良いという局面に当たるのはほぼ半分です。

 

梅雨入りが遅く、梅雨明けが早いことは、通常は、天気が悪い日が少ないので、レジャーなどの外出がしやすいことや、夏物関連の消費増を通じて、景気にプラスに働くことが多いようです。但し、猛暑による外での活動の抑制、水不足、農作物への悪影響など懸念されるマイナス面もあります。総じてみると、景気にはややプラスに働くことが多いようです。

 

[図表4]関東甲信地方 梅雨入り・梅雨明けと景気局面

東京の真夏日はこれまでのところ、昨年の方が多い状況。「電⼒需給ひっ迫注意報」発生もなし

2024年は暑い日が多いと報じられていますが、7月21日現在、東京の真夏日は22日で、昨年23年の30日を下回っています。また、熱帯夜も8日で、23年の11日を下回っています。

 

24年7月1日~21日の21日間の最高気温の平均は32.3℃で、23年の同期間の平均32.9℃を0.6℃下回っています。

 

[図表5]真夏日の日数(東京)/熱帯夜の日数(東京)

 

また、東京の真夏日の連続日数記録は2023年の7月6日~9月7日の64日間連続です。2024年は7月2日~7月10日の9日間連続がこれまでの最長です。7月17日から5日連続真夏日が現在継続中ですが、新記録更新は難しそうです。

 

[図表6]真夏日の連続日数(東京)

 

最も真夏日と熱帯夜が多かった2023年ですが、東京エリアの最大電力・実績は7月18日に記録した5,525万Kwで、22年8月2日の5,930万Kwを下回りました。省エネがかなり進んだと思われます。今年24年は7月21日現在で、7月8日の5,490万Kwが最大です。24年は4月以降毎月前年同月より、低い最大電力・実績になっています。23年に続き今年も、22年のように「電⼒需給ひっ迫注意報」が出ることは回避されています。電力の供給不足が経済活動に影響を及ぼすことはなさそうです。

 

[図表7]東京エリア:最大電力(実績)の推移

6月「景気ウォッチャー調査」では、「気温」「猛暑」「梅雨」という天候関連のDIが5月に比べ改善

6月「景気ウォッチャー調査」で現状判断DI(季節調整値)は前月差1.3ポイント上昇の47.0、先行き判断DI(季節調整値)は前月差1.6ポイント上昇の47.9と5月から幾分改善しました。どういう要因が改善に寄与したかキーワードごとに関連DIを作成してみると、「気温」「猛暑」「梅雨」の天候に関する関連のDIは現状判断、先行き判断とも6月は5月から改善しました。

 

「気温」の現状判断では「6月に入って気温が急上昇したことで、エアコンやサーキュレーターなどの季節商材の販売が伸びている。さらに、エネルギー価格の高騰に伴い、省エネ性能の高い製品が人気となり、単価の高い商品の販売が伸びている。」という近畿の家電量販店・人事担当が「良くなった」という判断をしていました。

 

また、先行き判断では「今夏も気温が高い予想のため、ドリンク類やアイス等が伸び、夜間の来客も増えそうである」という東京都のコンビニ・経営者の「やや良くなる」という。コメントがありました。「気温」関連DIは現状59.5、先行き61.8と景気にプラスという見方が多いことがわかります。

 

「猛暑」関連DIは現状59.4プラス要因とみる見方が多い一方、先行きは48.8と景気判断の分岐点50を若干下回りました。現状判断では「猛暑の予報が出ている影響か、夏物をまとめ買いする客が増えている。」という「やや良くなった」という判断をしている東北の衣料品専門店・経営者のコメントがありました。先行き判断では、「今年の夏は猛暑の予報が出ており、季節商材を中心とした売上には期待しているが、電気代・物価高騰の影響により大きな景気回復は見込めない。」四国の家電量販店の副店長の「やや良くなる」という判断をしたコメントがありました。一方、「長期予報では今年の夏も猛暑が予想されており、米の高温障害による収量の減少が予想される。」という理由で「やや悪くなる」と判断した東北の農林水産業・従業者がいました。

 

「梅雨」関連DIは現状48.0と景気判断の分岐点50を若干下回った一方、先行きは58.3と景気にプラス要因とみる見方が多くなりました。現状判断では甲信越の商店街・代表者が「梅雨入りの遅さといった異常気象もさることながら、中心街を歩く人影がない。中心街の店舗に魅力がないとも思えないが、打つ手なしである。」というコメントで「やや悪くなった」と回答しました。先行き判断では「コンビニの稼ぎ時である夏季に向けて、梅雨の時期も短くなり天候が安定すれば、来客数の増加が見込まれる。」という「やや良くなる」と判断した東海のコンビニ店長のコメントがありました。

 

一般的に梅雨明けが早く猛暑になると、電力需要が増えエアコンや冷たい飲料などが売れるので、景気にはプラスになると思われます。他方、あまり暑すぎると外出機会が減少し、景気の押し下げ要因になる可能性もあります。景気ウォッチャーのコメントも両面ありますが、総合的に判断すれば、経済的にはプラスと考えられると思われます。

 

[図表8]2024年5月・6月調査:気温、猛暑、梅雨、各関連コメント集計表

 

※本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。

 

宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)

三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。23年4月からフリー。景気探検家として活動。現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。

 

 

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