(※写真はイメージです/PIXTA)

いつやってくるかはわからない親の死。日々の生活に追われてしまいがちですが、悔いの残らないようにしておきたいものです。本記事ではAさんの事例とともに、相続の事前準備について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。

疎遠の父が遺したもの

Aさんはおひとりさまで現在、70歳。きょうだいはなく、母は早くに亡くなり、父と2人きりで暮らしていましたが、折り合いが悪いことが重なり、就職して少ししてから家を出て生活してきました。特に行き来もせず必要なときに連絡をとるぐらいであり、父とは疎遠になっていました。

 

しかし、5年前、そんな父が突然亡くなりました。近所の人から連絡を受けて父の死を知ったAさんは、葬儀等バタバタと過ごしていたところ、金融機関からの知らせで父がアパート経営をしていたことが発覚します。しかも、まだローンが残っているというのです。

 

詳しく話を聞くと、建物の残債がまだ残っており、賃料(30万円)による収入よりもローンの支払い(37万円)のほうが多い状態でした。それでもAさんはアパートを継ぐことにしました。Aさんは公的年金を月15万円受け取れるため、贅沢しなければ日常生活を送ることができるはずでした。しかし、亡き父のアパートを継いだことにより、ローンの支払いのためアルバイトをすることに。さすがに65歳からのアルバイトは体力的にも辛いと感じていました。

 

ローン完済まであと5年。Aさんが70歳になるまでです。5年働けば……そう自分に言い聞かせていました。

父からの贈り物だと思ったから

Aさんは父が亡くなったとき、疎遠になっていたことに後悔していました。母が亡くなってから若気の至りということもあり、1人で暮らす自由を望み疎遠になってしまった父との関係。「元気でいてくれればいい、好きに生きろ」といって見送られましたが、どう返していいかわからず俯いてしまいました。その後は結局、仕事が忙しい時期もあり、お互い元気でいればと亡くなるまでの会話は時折、電話で「元気か」「元気だよ」の一言で終わっていました。

 

父が亡くなったとき、結婚していない、兄弟もいないAさんの身内は1人もいなくなってしまったことで、もっと親孝行をすればよかったと後悔し、父が残したアパートを引き継ぐことにしました。

 

父との思い出も薄いAさんにとって、アパートを持ち続けることで、父との繋がり、想いを引き継ぐことにしたのです。

 

もしかしたら、父は自分に贈り物をしたかったのでは……。
 

 

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