読み違えた、アクティブシニアマーケティング
結果、どうだったのか。結論から言うと、業界関係者が描いた青写真通りにはまったくいかなかった。確かに高齢者の人口ボリュームは増え続けた。だが、そうして増加していった高齢者を全体的に見ると、必ずしも「アクティブ」にならなかった。
一部の層を除き、豪華客船に乗ってクルーズなどしないし、海外旅行にも思ったほど頻繁に行かなかった。期待していたほど消費が爆発しなかったのである。
大きな誤算だった。笛吹けども踊らずの状況が続く中、マーケティングや広告の費用対効果は悲惨な状況で、マーケターも広告パーソンも、そして多くの資金をつぎ込んだ企業も、大半のゲーム参加者が肩透かしを食らった。アクティブシニアマーケティングは完敗したのだ。
読み違いはどうして起きたのか。理由の一つが、多くの企業が高齢者をひとくくりにしてしまったことだ。
一般的に65歳以上を高齢者(シニア)という。広告業界では、通常、M1=男性20〜34歳、M2=男性35〜49歳、M3=男性50歳以上、F1=女性20〜34歳、F2=女性35〜49歳、F3=女性50歳以上などとターゲットを分類する。
さらに、より細かく、年齢や性別、居住地、家族構成、職業、年収、価値観、ライフスタイルなどをまるで実在する人物のように設定して、商品やサービスのペルソナマーケティングを行うこともある。つまり、セグメントを行い、マーケティング戦略に生かしているわけだ。
しかし、当時のアクティブシニアマーケティングはターゲットを「高齢者」として一緒くたにしてしまった。本来であれば下の世代と同様にセグメントし、ターゲットとなる世代を見極め、必要に応じて細かくペルソナを設定すべきところだ。
しかし、誰にとっても、本格的な高齢者マーケティングは未経験かつ未知数だった。
唯一分かっていたのは、高齢者が増え続け、あと10年もすれば団塊の世代という巨大な固まりが乗っかり、市場が膨張するという未来図だけだっだ。それを唯一のよりどころとして、アクティブシニアという希望的観測に突き動かされ、わき目もふらずまい進した。
結局、そうした大ざっぱな高齢者マーケティングが失敗を招いた。
原田 曜平
マーケティングアナリスト/芝浦工業大学デザイン工学部教授