調査官の闘志に火をつけた“Aさんの対応”
そしていよいよAさんの自宅で調査が行われます。調査官が「過去に何度もお父さんの通帳からお金が引き出されているようですが、内容をご存じですか」と尋ねるとAさんは「通帳は父が管理していたので、私は全く分かりません」と嘘の回答に終始しました。
また調査官はAさんに対し「お父さんの通帳を見せてください」と聞くとAさんは「嫌だ。見せる必要はない」と頑なに拒否し説得に応じませんでした。次に調査官は「貸金庫を見せてください」と尋ねると「貸金庫には何も入っていないから見せる必要はありません」と答えAさんはこれに応じませんでした。
調査の初日はこれで終了し、何も進展はありませんでした。Aさんは「調査は楽勝だったな♪」と安堵する裏で、調査官はAさんの態度や状況を見て脱税を確信し、闘志に火が付きます。
次に調査官は、金融機関への反面調査を開始します。反面調査とは、税務調査の対象者本人ではなく、関係先に対して行われる調査のことです。そこでAさんの勤務先付近の銀行ATMでお父さんの口座から100回以上の出金がなされている事実を把握します。さらに、ATM防犯カメラおよび貸金庫の開閉記録を確認によって、引き出しをしたのがAさんであり、出金を行った日にAさん名義の貸金庫が開閉されているほか、調査初日の1週間前に金庫を開けていた事実も把握するのです。
結果的に支払うことになった“金額”
そして後日、調査官は2回目の調査でAさんにこれらの事実を突きつけます。「防犯カメラの記録を見ると、お父さんの口座からお金を引き出したのはAさんであることが分かりました。さらに引き出したのと同日に貸金庫を開閉している事実が確認できました」と話すとAさんは「忘れてしまって、分かりません」と白を切りとおします。
調査官はさらに「調査初日の1週間前にも金庫を開けた記録があったのですが、何を持ち出しましたか? つい先日ですので忘れたとは言わせません」と問い詰めるとAさんは「印鑑と通帳を取りに来ました」と嘘の回答をします。
調査官はAさんの態度を見かねてついに「嘘をついていませんか。こちらには証拠が揃っています。嘘でないならお家にあるものを確認させてください」と強硬手段に出ます。Aさんはやむなく許可すると、多額の現金が詰められたリュックサックと財産管理ノートが発見されました。
これで言い逃れができなくなったAさんは、リュックサックの中の現金はお父さんが亡くなる前に口座から日々引き出したものであること、またバレないと思って相続財産が基礎控除額以下となるようにしてわざと申告をしなかったことを認めました。財産管理ノートに金庫内に保管されていた財産が詳細に記載されていたことも、事実を裏付ける証拠の一つとなりました。
結果的にAさんは、本来支払うべき1,220万円の相続税に加え、ペナルティである重加算税と延滞税を約500万円追加で支払うことになりました。
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