「相続税申告等についてのご案内」が届いたら、マークされている証
そこからAさんは、父の入院生活中に毎月父の口座から100万円以上をコツコツ引き出し、3年後に口座の残高を3,000万円まで減らしました。Aさんは途中でいくら引き出しているかを把握するために、財産管理ノートを作成し、金庫内に保管されている財産を詳細に記載していました。
Aさんは「父さん! ついに引き出しが終わったからもう相続税はかからないよ!」と伝えると父は「そうか。これで安心だ」と言い残してその数ヵ月後に息を引き取ります。
遺産が相続税の基礎控除である3,600万円を超えた場合、相続税申告が必要となります。この場合、財産は口座に残っている3,000万円だけなので「相続税申告は必要ない」というわけにはいきません。銀行にある3,000万円とタンス預金7,000万円の合計1億円をお父さんの財産と考えますので、相続税申告が必要です。
相続税申告は、亡くなってから10ヵ月以内に行う必要があります。ところがAさんは「銀行口座には3,000万円しか残っていないから、税務署には相続税申告をしなくても何も言われないだろう」と考え、相続税申告の準備は一切しませんでした。
税務署の調査は、このタイミングから、水面下で行われています。まず亡くなって6ヵ月後頃に、「相続税申告等についてのご案内(相続税のおたずね)」という書類を送ります。これには、相続税がかかる家庭に「あなたは相続税申告が必要なので、期限までに申告してください」ということを伝えるという目的があります。よってこの書類が届いた家庭は税務署からマークされているのです。
またこの通知には、「申告要否検討表」という名前のアンケートが入っています。これには亡くなった方の遺産やその他の情報を記載し、返信する必要があります。
ですがこれを見たAさんは、「口座の残高上、3,600万円を下回っているし、関係ないからこの書類は無視しよう」ということで何もせずにいました。
なぜ税務署はAさんの脱税に気づいたのか…
そこから約2年が経過し、「へっへっへ。やっぱり相続税はかからなかったか。意外と税務署はちょろいなぁ」とAさんが安心しきっていると、ある日、一本の電話が鳴ります。「税務署のものですが、お父さんの税務調査を行わせてください」ということで、税務署はAさんが脱税していることに気づき、税務調査が入ることになりました。
相続税の税務調査は、財産が何億円もある資産家だけに入ると思われているかもしれませんが、このような明らかな脱税があった場合、その規模を問わず行われます。1度税務調査が入ると、そのうちの約87%の家庭が何らかの追徴課税を受けることになります。
では、なぜ税務署はAさんの脱税に気づいたのでしょうか。それはKSKシステムです。KSKシステムには、今まで年収をどれくらいもらっていたか、不動産の賃貸収入があるか、過去に不動産を売却して高額なお金が入ったか、多額の保険金を受け取っていたか、金(きん)の売却をしてお金が入ったかなどの情報が入っています。
税務署は、このような財産とお金にまつわる情報を、支払調書を通じて把握します。相続税がかかるような資産家は、過去にこれらの収入の痕跡を残しているので、税務署はKSKシステムの情報からどれくらいお金を貯めているかを推定します。よって財産の推定額と納税者の申告とに大きな差がある場合は、「この家庭は何か財産を隠しているに違いない」と気づくのです。
違和感に気づくと、税務署は次に金融機関に調査をかけます。税務署は、その職権で最長10年分の預金取引を全て確認できます。故人だけではなく、その家族の通帳も全て確認します。超富裕層で何年も前からマークされている場合や、調査で現物確認される場合は、10年以上の期間を見ることもあります。特に亡くなる直前3年間は重点的に見られます。
もし亡くなる直前に多くの引き出しがあるのに、家族の通帳に預金がない、また贈与税申告もされていないということであれば、どこかにタンス預金がある可能性もあるなという推測ができるため、税務調査の対象となるのです。
このままではバレてしまうと考えたAさんは、慌てて貸金庫の中にある7,000万円をリュックサックに入れて自宅の押し入れに隠しました。
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