転職活動が一般的になり、空前の売り手市場にもなりつつある近年の日本。優秀な人物であれば、多数のオファーが殺到することもめずらしくありません。東京エグゼクティブ・サーチの代表取締役社長・福留拓人氏曰く、今は転職活動者が有利に条件を交渉することもできるようです。そこで本記事では、最新の「採用側」の実情と転職を有利にするコツについて解説します。
優秀な人には転職オファー殺到…空前の“売り手市場”を活かして「待遇アップ」を実現する方法【人材紹介のプロが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

多くの選考を受け、多くのオファーを獲得しておく

このように多くの選考を受けることで、特定の人にオファーが殺到する時代です。そのなかで企業はオファーに妥協をしないため、結果的に特定の人物にオファーが片寄るということになります。

 

私どもTESCOで統計を比較してみたのですが、10年前は一般的な中途採用の面接の同時進行数は3社から5社程度でした。そしてオファーまで行き着くのはせいぜい1社か2社でした。すなわち、かなり選択肢が狭い状況で判断をしていたと考えられます。

 

ところが最近ではこの数が倍くらいに増えていて、選考数10、オファー5というようなケースがよく見受けられるようになりました。まるで定期採用(新卒)の状況に近くなってきているともいえます。定期採用は一定期間しか就職活動をしないので、優秀な人物が受ければ受けるほどオファーが殺到することになりますが、現在の中途採用はこれに似てきています。

 

ということは、候補者は従来のように「まず本命」でなくとも自分の市場評価を客観的に把握し、正確な評価を受け取り、それが可視化された状態で証明できる状況にしていくことができます。よって数社のオファーを獲得しておくというのが非常に大事になり、これが後に有利に働きます。

 

オファーを受けてどの程度の条件を提示されたかという明確な事実をもって、活動序盤にいわば「当て馬」のような企業を抱えておけばよいということになります。その企業が自分の本命でなくとも、こうした当て馬的な企業からの有利なオファー面談を消化して、返事は保留しておくのです。

 

そして、その条件をベースに活動の中盤から後半にかけて自分の本命である「本当に行きたい企業」が絞られてくるでしょうから、そこにも既存のオファーの条件をぶつけて、より希望に近づける有利な交渉に活かすわけです。

 

「当て馬」に続いて失礼な表現かもしれませんが「ダシ」にする企業を作る手法が一般的になりました。それだけ候補者が賢くなってきているといえるのではないでしょうか。

売り手市場をうまく活かし、待遇向上を狙う

昔はこういうことをすると、まるで不正に手を染めたかのように言われ、企業側に評価を下げられかねなかったのですが、今はご存知のように売り手市場の状態であり、企業はその人物を失ってしまえばその替えになる人材がいつ現れるか確証がない時代です。買い手である企業は、ある程度候補者の言い分を聞かざるを得なくなっています。

 

そのため、求職者サイドから転職市場を見ると、従来のように焦る必要がなくなりました。自分を高く評価してくれるオファーを取りつけておいて、そのオファーレターを片手に握りしめ、優先順位の高い企業に行けば「他社からこういう条件が出ているのでこれ以上の待遇を希望します」というような交渉を仕掛けることができます。

 

そうするととても有利に転職活動が進みますから、求職者のみなさまはこのようなテクニカルなアプローチもぜひ身につけておいてはいかがでしょうか。

 

 

福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社

代表取締役社長