〝ほぼ満室〟に見せる虚偽演出の物件に手を出してはいけない
引き続き前ページの[図表1]をご覧ください。この物件は利回りを高く見せるための〝演出〟がほどこされていることが推測できます。というのも、一番右の項目に特記事項として「2年内解約ペナあり」「中途解約ペナあり」とあるからです。
ペナとは「ペナルティ」のことです。このような記述がある場合、ほぼ確実に何かしらのサービスが現在のテナントにつけられていることがわかります。「レントホリデー(※)」や、フリーレントを長期間設定しているようなものです。
※賃料無料期間を分割させる制度のこと。賃貸契約期間中のどこかで無料期間をつくることで、テナントの年間の賃料支出の総額を抑えることができる。
このような物件は、仮に利回り4.5%となっていても実質はそれに満たないことがよくあります。ただでさえ割高なので、今のテナントが抜けたあと、同じ賃料では次の客付けがうまくいかないことが多いでしょう。
結果として賃料を下げざるを得なくなり、当初の利回りを達成できないことがあるのです。賃貸借契約書をよく確認すれば見抜けますが、パッと見の数字のよさで直感的に決めてしまう人は少なくありません。そのような人はほとんどの場合、残念ながら運用がうまくいっていないのが現実です。
ここで1つ、質問です。物件が2つ提示されたとします。物件そのものの条件は同じです。物件Aは、不動産会社所有の物件で、先月テナントが入りました。物件Bは、個人オーナー所有の物件で、6年間継続しているテナントがいます。あなたならどちらを購入したいですか?
この質問をすると、物件Aを選択する人が少なからずいます。理由を聞いてみると「テナントが入りたてで、これから長く賃料を取れそうだから」という答えが多いです。逆に「物件Bはすでに6年間も入っているので、そろそろ退去されそうな気がする」という答えもありました。
しかし、実際は真逆です。手を出すべきは「物件B」なのです。なぜなら、物件Aには不動産会社による「演出」が見え隠れしているからです。
言うまでもなく、不動産会社は不動産のプロです。そのプロが所有している物件で、しかもテナントが先月入っているのです。先述のレントホリデー(フリーレントも含む)や仲介手数料無料(仲介業者に払うインセンティブの上乗せ)が成された可能性があります。
さらに、そこには不動産会社の〝焦り〟のようなものも感じられます。そもそもビルは空室の状態で売れることはほぼありません。「自社で使う」というケースよりも「すでにテナントの入っている収益モノ」としてのニーズのほうが高いからです。
そのため、不動産会社が売却するために無理やりテナントをつけている可能性があるのです。無料期間をつけて「とりあえず入ってもらっている状態」にして、とにかく売り抜けようと焦っているのです。実際、先月入ったテナントと6年間入っているテナントの退去の可能性についてはどちらも同レベル。出るか出ないかは同じ確率です。
けれど、経験の少ない人の場合、新規テナントにプレミアム感を覚えることがあるでしょう。しかし、その背景には実は売り手による何かしらの演出が入っていることは大いにあるのです。
青木 龍
株式会社Agnostri(アグノストリ)代表取締役社長
※本記事は『御社の新しい収益基盤を構築する 区分オフィスビル投資術』(ビジネス教育出版社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
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