請求する意向の場合は、特別寄与料分の負担を考えながら遺産分割をする
特別寄与者が請求の意向を示した場合には、特別寄与料と遺産分割の一体解決を検討する
(1) 特別寄与料の請求と遺産分割協議における寄与分の関係
特別寄与料の制度ができる以前は、遺産分割の実務において、相続人の配偶者等の特別の寄与を、当該相続人の履行補助者と捉え、当該相続人の寄与分に含めて考慮するという手法がとられていました。
例えば本件であれば、兄の元妻による療養看護の事実は、兄の寄与分を評価する中で考慮され、その分遺産分割において兄が承継する遺産が増加することとなります。
今般、特別寄与料の制度ができたことにより、相続人の配偶者等、相続人ではない親族の特別の寄与を直接評価し、財産的給付を可能にする制度ができることとなったため、これを相続人の寄与分の評価の中に含めた上で遺産分割を行う必要性はなくなったようにも思われます。
しかし、後に述べる除斥期間を経過してしまった場合には特別寄与者の寄与が評価されないままとなってしまうこと、相続人の配偶者等の寄与と、当該相続人の寄与とを明確に切り分けることが困難な事案もあり得ることから、遺産分割協議において相続人の配偶者等の寄与を考慮することは否定されないと整理されています。
(2) 特別寄与料の具体的内容の確定方法
上記(1)のとおり、特別寄与者の寄与が相続人の寄与分として考慮されることが否定されないことを前提にすると、
特別寄与者にいくら特別寄与料を支払うこととなるか、相続人の寄与分の評価額をいくらとするか、(特別寄与者と寄与分を認めるべき親族が配偶者等実質的に同一と評価し得る場合において)特別寄与者と相続人いずれの寄与と評価すべきか、
切り分けが難しい部分の処理については、相互に関連し合うこととなるため、可能であれば、特別寄与料と遺産分割とは一体的に解決することが望ましいと考えます。
この点、遺産分割に関する手続としては、裁判外での協議、協議が調わない場合の家事調停および審判手続が考えられるところ(民907、家事39・244・別表2―12)、特別寄与料の具体的内容を決める手続としても、同じく、裁判外での協議、協議が調わない場合の家事調停および審判手続が用意されています(民1050②、家事39・244・別表2― 15)。
遺産分割協議の争点が寄与分以外にもある場合等は、特別寄与料を先行して解決することで結局全体の早期解決が得られることも考えられるため、今後の実務の積み重ねの中でベストプラクティスを見出していくことになると思われます。
(3) 本事例の対応
本事例では、兄の元妻に特別寄与料請求権が認められることを前提に、遺産分割協議においても兄の元妻の寄与を考慮すべきか否か、どのように考慮すべきかを検討する必要があります。
上記2. のとおり、兄の元妻が特別寄与料を請求しない意向を示し、請求権を放棄する旨の意思表示を受けた場合には、後になって特別寄与料が請求されるおそれがないため、兄の元妻の寄与については考慮する必要なく、遺産分割協議を行えばよいことになります。
他方、兄の元妻が特別寄与料を請求する意向を示した場合、その負担を考慮した上で遺産分割を行うこととなります。
この場合、兄の元妻に支払われるべき特別寄与料がいくらか、兄と兄の元妻のいずれの寄与とも評価しがたい部分の処理はどうするか、といった複数の問題があるため、上記(2)のとおり一体的な解決を図ることが望ましく、
それが難しい場合にはいずれか一方を先決することのメリットとデメリットを把握した上で、方針につき決断していかざるを得ないでしょう。