元兄妻に請求の意向を確認し、請求しない場合は内容証明などで証拠化しておく
2. 特別寄与者の意向を確認し、特別寄与者が請求しない意向を示した場合には、特別寄与料の請求権を放棄する旨の意思表示を受け、その証拠化を検討する
(1) 意向確認の必要性
特別寄与料の請求権を有している場合でも、必ずその権利を行使しなければならないわけではなく、権利を行使するか否かは特別寄与者の自由な判断に委ねられます。
また、相続人が複数いる場合、特別寄与者は、各相続人にそれぞれ相続分に応じた特別寄与料を請求できるとされており、ある相続人には請求し、他の相続人には請求しないという選択をすることもできます。
請求を受ける相続人側から見ると、特別寄与料が請求されるか否か不確定な状態のままでは、兄との遺産分割協議における方針決定が難しくなります。そのため、兄の元妻との関係性によるものの、特別寄与料の請求に関する意向を早期に確認するのも一法です。
なお、後述のとおり、特別寄与料の請求にかかる除斥期間は特別寄与者が相続の開始および相続人を知った時から6か月または相続開始時から1年ですので、上記の意向確認のための接触の際に、特別寄与者に相続の開始および相続人を知らしめ、除斥期間の起算点を明確化するというのも一つの考え方です。
この場合には、特別寄与者が相続開始の事実および相続人を知ったことを証拠化できるよう、内容証明郵便による等事案に応じた工夫をすることになるでしょう。
(2) 特別寄与料の請求権の性質
兄の元妻が特別寄与料を請求しない意向を示している場合、後の翻意を防ぐ方法があるかを検討するに当たり、まずは特別寄与料の請求権の法的性質を検討することとなります。
特別寄与料の請求権は、民法1050条1項の要件を満たした場合に法律上当然に発生する法定の金銭請求権であり、相続開始時に特別寄与者を債権者、相続人を債務者として原始的に発生するものと解されています。
ただし、その具体的内容は協議または審判により定まることから、それまでの間は抽象的請求権にとどまると解されています。
(3) 特別寄与料の請求権の処分の可否
上記のとおり、特別寄与料の請求権は相続開始前には生じないため、相続開始前の処分はできません。
他方、相続開始後は抽象的な権利としては発生していますので、個別の相続人に対する意思表示により、特別寄与料の請求を放棄することも可能と解されます。
また、特別寄与料の請求権は一身専属権ではなく、例えば相続開始後に特別寄与者が死亡した場合には、その相続人が特別寄与料の請求権を承継するものと考えられます。
これに対し、特別寄与料の請求権を第三者に譲渡したり、第三者が差し押さえる場面では、抽象的請求権のままではその後の権利関係が複雑化するため、協議または審判により権利内容が具体化されるまでは認められないと解すべきでしょう。
(4) 本事例での対応
本事例では、兄の元妻の意向を確認し、兄や「私」に特別寄与料を請求しない意向を示した場合には、兄の元妻から特別寄与料請求権を放棄する旨の意思表示を受け、これを証拠化しておくべきです。