(※写真はイメージです/PIXTA)

フリーランスとして働く方がタイやマレーシアに移住すると「無税」で生活することが可能です。これは一部の富裕層だけがメリットを享受できる限定的な話ではなく、一般的な収益を上げているフリーランスの方にとって、有益なスキームです。国をまたいだ法人設立や国債税務に明るい国際弁護士の小峰孝史氏が解説します。

フリーランスで仕事をしている人が、タイやマレーシアに移住することで税金をゼロにすることも可能という記事を執筆したところ、「無税」という目を引くワードを使ったためか、多くの反響がありました。

 

『フリーランスの最新節税スキーム…「タイ移住+外国法人設立」で、まさかの「税額ゼロ円」を実現する方法』

 

『フリーランスの最新節税スキーム…「マレーシア移住」で実現する、驚愕の〈税金ゼロ生活〉』

 

ここでは、疑問や質問を紹介しつつ、回答していきたいと思います。

「タイ・マレーシアに居住」+「国外の法人で仕事」=無税

海外移住してフリーランスの仕事を続ける場合、移住先の国に法人を作る方も多いでしょう。しかし、「移住先の国」と「仕事を受託する法人の国」を別々にするのが、筆者の提案のポイントです。

 

タイ・マレーシアに居住したうえで、タイ・マレーシアの国外、たとえば、香港や英領バージン諸島(BVI)に法人を設立、その法人で仕事を受託するのです。

 

[図表1]タイエリートを使ったタイ移住の場合

 

[図業2]デジタルノマドビザを使ったマレーシア移住の場合

 

 Q1  183日ルールやPE認定などがあり、簡単ではないのでは?

 

183日ルールやPE認定の問題があり、税務署は簡単にこのスキームを認めないのではないでしょうか?

 

 A1  体制作りに留意すれば、これらの問題は回避可能

 

たしかに、居住国(タイ・マレーシアなど)の滞在日数が少なく、日本に183日以上滞在しているなら、税務当局は日本居住者と判断し、節税はできないでしょう。また、居住国外の法人(香港法人など)が日本にオフィスなど恒久的施設(PE)を持っていたら、日本で事業を行っていると判断されて納税義務が生じるでしょう。

 

ただ、気を付けて体制作りをすれば、これらの問題は回避できます。

 

 Q2  日本に住みながらでも可能ではないでしょうか?

 

香港法人の税率が8.25%、BVI法人の税率が0%なら、日本に住みながら香港やBVIの法人を使って仕事をしても、節税できるのではありませんか?

 

 A2  それではタックスヘイブン税制が適用され、日本で追加の納税を迫られます

 

日本住んでいる人が、香港やBVIのようなタックスヘイブンにペーパーカンパニーを持ち、その法人が所得を得ていたら、いわゆるタックスヘイブン税制が適用されて、日本で追加の納税を迫られます。ですから、「日本に住みながら、香港法人・BVI法人で仕事をして節税」という作戦は不可能です。

 

そうすると、「日本居住では不可能な節税が、タイ・マレーシア居住だと、なぜ可能になるのですか?」と聞きたくなるでしょう。

 

タイ・マレーシアには、タックスヘイブン税制が無いため、国外のタックスヘイブンを使えるからというのが答です。日本人フリーランスに限らず、タイ・マレーシアの富裕層は外国法人を使って大胆な節税が可能なのです。

 

コンドミニアム最上階のプールからクアラルンプールの象徴ペトロナスツインタワーを望む
コンドミニアム最上階のプールからクアラルンプールの象徴ペトロナスツインタワーを望む

香港を利用するなんて「チャイナリスク」が心配!

 Q3  香港は自由を失い、チャイナリスクが大きいのでは…?

 

中国共産党が香港支配を強め、香港人も海外へ逃げているなか、日本人がわざわざ香港を使う必要はないのではありませんか? チャイナリスクが心配です。

 

 A3  法人設立や銀行口座開設の容易さ、金融機関の信頼性など、複数のメリットがあります

 

たしかに、香港には、他国(英国、オーストラリアなど)のパスポートやビザを持っている人が多いです。ですから、「日本人がわざわざ香港法人を使う必要はない!」という気持ちもわかります。

 

ただ、法人の設立しやすさ(現地在住の株主・取締役が不要であるなど)、銀行口座の開設しやすさ、金融機関の信頼性などの点で、いまなお香港法人は便利です。

 

また、香港では民主主義や報道の自由などへの制限は強まっているものの、ビジネスや投資の分野では自由が維持されていますから、香港法人の使い勝手は損なわれていません。

 

筆者自身、2018年に香港で起業して今は東京常駐ですが、日本法人やシンガポール法人を経営しつつも、香港法人も引き続き経営しています。

 

 Q4  国外の法人に収入が入ったとしても、オーナー個人はどうやって生活すればいいのでしょうか?

 

タイ・マレーシアに居住しながら香港法人名義で仕事を受注していたら、香港法人にお金が入っても個人にはお金がなく、居住地でお金を使えないのではありませんか?

 

とくに、タイ居住者の場合、2024年からタイ国外で得た所得に対しても課税されるようになったので、難しいのではないかと思います。

 

 A4  個人にお金を移す場合は、香港法人から個人へ「配当」のかたちにする!

 

タイ・マレーシアでの支出のうち、香港法人の経費として認められる支出もあるでしょう。香港法人の口座から引き落とせるクレジットカードやデビットカードを作っておくと、簡単に支払できて便利です。

 

ただ、香港法人の経費といえない支払のため、個人にお金を移す必要もあるでしょう。それらは、香港法人から個人へ配当のかたちで可能です。

 

さて、タイでは国外所得も納税されるようになったという点ですが、タイ国外で納税済みの所得は、タイに持ち込んでも再度課税されることはありません。日本国内で納税済みの所得をタイに持ち込むのが良いでしょう。

そうはいっても、多くのフリーランスには縁のない話では…?

  Q5  ほとんどのフリーランスには、この節税スキームは無関係ではありませんか?

 

東京都心部のマンションとタイ・マレーシアのマンションを比較して、タイ・マレーシアのほうが安いといわれたところで、多くのフリーランスには無関係だと思います。そもそも、フリーランスで東京都心部のマンションに住んでいる人は多くありません。この節税スキームが当てはまるのは、1億円以上稼げるような、ごく一部の人だけではありませんか?

 

  A5  600万円程度の年間売上があれば、海外移住のメリットは十分あります

 

たしかに、移住することで節税できても、支出がそれ以上に増えてしまったら、意味はないでしょう。

 

しかし、バンコクやクアラルンプールにあるタワマンは高くありません。建物の新しさや広さによりますが、家賃10万円程度からあるので、東京の普通のアパートと比べても安いと思います。

 

食事も、毎晩、日本料理屋や居酒屋で外食していれば出費がかさむでしょうが、ローカルフードや自炊を組み合わせれば、東京と比べても安くすみます。私は、クアラルンプールのチャイナタウンで朝食を取りながらこの記事を書いていますが、美味しくて安くて満足です。

 

チャイナタウンのカフェ(トースト:5.8リンギット=約180円、コーヒー:3.9リンギット=約120円)
チャイナタウンのカフェ(トースト:5.8リンギット=約180円、コーヒー:3.9リンギット=約120円)

 

そもそも、バリバリ仕事をしているフリーランスに金銭的余裕がないはずがありません。年間600万円くらいの年間売上の方なら海外移住のメリットは十分ありますが、年間1,000万円を超える方であれば、「節税効果」は大きいでしょう。

 

ちなみに、フリーランスを束ねて業務受託をしているStock Sun株式会社によると、同社運営のサロンに所属しているフリーランスは、年間売上1,000万円以上が全体の16.6%、年間売上3,000万円以上も6.7%とのことです

 

※ https://stock-sun.com/column/freelance-fact-finding-survey/

 

海外でお得なフリーランス生活を、ぜひとも楽しんでいただければと思います。

 

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小峰 孝史
OWL Investments
マネージング・ディレクター・弁護士

 

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