今回は、親、兄弟をはじめとした相続人が誰もいない「おひとりさま」の死後の財産の行方について説明します。※本連載は、弁護士・武内優宏氏の著書『おひとり様おふたり様 私たちの相続問題』(セブン&アイ出版)の中から一部を抜粋し、「おひとり様」の相続を巡るさまざまなトラブルを、具体的な事例を取り上げて解説します。

相続人がいなければ「国庫に帰属」する遺産

【CASE2】親、兄弟がいないおひとりさまの場合は?

 

●相談者:鈴木太郎(仮名 70歳)
●被相続人(予定):本人(配偶者なし、子供なし)
●相続人:なし
●相続財産:自宅不動産、預貯金

 

相談者の鈴木太郎さんは、父親を20年前に、母親を10年前に亡くしました。会社を定年退職してからは、母が亡くなったときに相続した家にひとりで住んでいます。ある日、勤めていた会社の元上司のお通夜に行き、通夜ぶるまいの席で、鈴木さんは元同僚に「自分は独身だから、死んでも誰にも迷惑をかけない。安心だよ」と漏らしました。

その言葉を聞いた元同僚が「でも、死んでから、家の整理や財産の処分は誰がやるんだね?」と質問してきました。鈴木さんは今まで考えたこともなかった質問に、「死んでからのことを……」と自身の境遇をあらためて考えさせられました。

 

鈴木さんには、配偶者も兄弟もいません。自宅と預貯金は多少ありますが、鈴木さんの財産を相続させる人もいません。後日、鈴木さんは「亡くなったあとの自分の財産をどう処分したらいいでしょうか」と相談にいらっしゃいました。

 

法定相続人が誰もいない場合、その方の遺産は国庫に帰属することになります。国庫帰属のためには、「相続財産管理人」の選任をしなければなりません。相続人が誰もいない場合、親族などの利害関係人が家庭裁判所に相続財産管理人選任の申立てをし、裁判所によって管理人が選任されます。

 

ただし、相続財産管理人選任の申立てには、何十万円ものお金がかかります。相続権のない遺族が、わざわざそのような負担をしてまで相続財産管理人選任の申立てをするのは、実際には面倒だと思います。相続人がいないことにより国庫帰属となった遺産の額は、平成24年の1年間に325億円にも上ります。

「遺言書の作成」はおひとりさまほど重要!?

しかし、実際にこのような手続きを踏まず、事実上遺産が宙に浮いてしまっている方も多いのではないかと思います。鈴木さんのような場合、遺言書を作成することをおすすめしています。お世話になった人への遺贈や、自宅を市区町村や公益団体へ寄附するなど、遺言を作成しておけば自分の財産の行く先を決めることができます。

 

また、鈴木さんには親族がいないため、財産以外も考えなければなりません。「家で亡くなった場合、誰に発見してもらうか」「死亡届」「葬儀」「お墓」「遺品整理」など、亡くなったあとの手続きも事前に考える必要があります。通常、一人暮らしの方が亡くなった場合、住民登録等から親族(6親等まで)がわかれば、警察から遺族へ連絡がいきます。

 

親族がいない場合、もしくは遺体の引き取りを断わられた場合には、市区町村が引き取り、火葬します。一人暮らしの方は元気なうちに、死んだあとの準備もしておきましょう。事前準備としては、「遺言書」または「死後事務委任契約」の作成、「遺言執行者」の選任を行うなどの方法があります。

 

死後事務委任契約とは、自身が亡くなった後の手続き(葬儀、行政手続きなど)を第三者に委任する契約です。また、遺言執行者とは、遺言に効力が生じたときに、遺言書に書かれている内容を実行する人のことです。おひとり様の場合、どちらの方法を選ぶにしても、必ず遺言書の作成をおすすめしています。

 

亡くなったあとのことは自分では絶対にできないので、誰かに任せるほかありません。鈴木さんのケースに関しても、これら一連の準備をしておけば、亡くなられたあとも心配することはありません。

本連載は、2015年3月1日刊行の書籍『おひとり様おふたり様 私たちの相続問題』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

おひとり様おふたり様 私たちの相続問題

おひとり様おふたり様 私たちの相続問題

武内 優宏

セブン&アイ出版

「自分が死んだあと、親族に迷惑は掛けたくない」。高齢者のおひとり様の相談では、口をそろえて皆さんがおっしゃいます。その不安を取り除くには、法律の知識を用いてさまざまな対策を考えて、実行していくしかありません。兄…

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