遺言と「異なる」遺産分割はできるのか
3. 遺言と異なる遺産分割を成立させることができるかについて検討する
遺言が存在する場合でも、遺言執行者が存在しない場合には、当該遺言で遺産分割が禁止されている場合(民908①)を除き、相続人全員が遺言の内容を認識した上で、遺言の内容と異なる遺産分割を行うことは可能と解されています。
遺言執行者が存在する場合(遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前も含むとされています。)、相続人による相続財産の処分その他相続人がした遺言の執行を妨げる行為は無効とされていることとの関係で(民1013②)、遺言と異なる内容の遺産分割をすることができるかが問題となります。
この点、遺言があっても、必ずしも遺言者の意思どおりに財産が分配されないこともあり(遺留分侵害額請求権が行使された場合や、受遺者が遺贈を放棄した場合等)、遺言者の意思よりも相続人の意思を尊重すべき場面もあり得ることから、相続人全員の同意がある場合には、遺言執行者の同意を得た上で、遺言の内容と異なる遺産分割を行うことは可能と考えられます。
なお、相続人以外の第三者に遺贈がされており、当該遺贈の受遺者が当該遺贈について放棄(民986)をしない場合には、当該遺贈の内容に抵触する遺産分割を行うことはできません。
よって、本事例についても、父親の遺言において遺産分割が禁じられておらず、遺言執行者も存在せず(あるいは、遺言執行者が存在するが、その同意が得られており)、第三者に対する遺贈もない場合(あるいは受遺者が遺贈を放棄した場合)には、相続人全員が父親の遺言の内容を認識した上で、当該遺言の内容と異なる遺産分割を新たに行うことは可能といえます。
遺産分割協議の前に「遺言」の有無を確認すべきワケ
4. 公証役場や法務局に対して、公正証書遺言や(保管制度を利用している場合の)自筆証書遺言の有無を照会する
(1) 遺言の調査
上記のとおり、遺産分割後に遺言の存在が発覚した場合、遺産分割が無効、取消しとなるリスクがあることから、遺産分割協議を開始する前に、相続人らからのヒアリング等を基に、遺言の存在を調査することが重要です。