遺産分割後に遺言が発見された場合の優劣
先日父が亡くなり、母、私、妹の三名が相続人となりました。遺産については、約1,000万円の価値がある不動産と1,000万円の預金があったのですが、遺産分割により、母が不動産を取得して登記を完了させ、私と妹が500万円ずつ預金の払戻しを受けました。ところが、最近になって、母から、父が私に対して大半の遺産を相続させるとした遺言が見つかったと告げられました。
紛争の予防・回避と解決の道筋
◆遺産分割後に遺言の存在が判明した場合、当該遺言の内容が特定遺贈または特定財産承継遺言の場合には、当該遺産分割は、当該遺言と抵触する範囲で無効となり、当該遺言の内容が割合的包括遺贈または相続分の指定の場合には、当該遺産分割は錯誤取消しの可能性がある
◆遺産分割が無効または取消しとなり、相続人間で改めて遺言に従った相続財産の承継を行う場合には、税務上贈与とみなされないよう注意が必要となる
◆遺言が存在する場合でも、一定の条件の下で、遺言と異なる内容で遺産分割を成立させることもできる
◆公正証書遺言および遺言書保管所に保管された自筆証書遺言は、相続発生後に検索することができる
チェックポイント
1. 発見された遺言の内容・性質を確認し、遺産分割の無効・取消しの可否を検討する
2. 遺産分割が無効または取消しとなる場合、遺産分割に基づいて移転した相続財産の承継方法を検討する
3. 遺言と異なる遺産分割を成立させることができるかについて検討する
4. 公証役場や法務局に対して、公正証書遺言や(保管制度を利用している場合の)自筆証書遺言の有無を照会する
解説
1. 発見された遺言の内容・性質を確認し、遺産分割の無効・取消しの可否を検討する
遺言の存在を知らずに遺産分割を行った場合、当該遺産分割の効力は、当該遺言の性質によって異なります。
遺言の内容が相続人に対する特定遺贈または特定財産承継遺言(特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言(民1014②))の場合、特段の事情がない限り、何らの行為も必要とせずに、被相続人の死亡時(遺言の効力発生時)に直ちに当該遺産が当該受遺者・相続人に承継されることになります。
そのため、後に成立した遺産分割は、当該遺言の内容と抵触する範囲で無効になると考えられます(東京地判平26・8・25(平23(ワ)15618))。
他方、遺言の内容が相続人に対する割合的包括遺贈や相続分の指定の場合、当該遺言の存在を前提にしたとしても、相続人間で遺産分割が必要となるため、遺言内容と異なる遺産分割は当然に無効とはならないと考えられます。
ただし、仮に相続人が当初から当該遺言の内容を知っていれば、当該遺産分割の内容に同意することはなかったであろうと評価できる場合には、当該遺産分割は錯誤により取り消される可能性があります(民95、最判平5・12・16判時1489・114)。
本事例の遺言の詳細は明らかではありませんが、当該遺言の内容が特定遺贈または特定財産承継遺言の場合、当該遺産分割は当該遺言と抵触する範囲で無効となり、当該遺言の内容が割合的包括遺贈または相続分の指定の場合、当該遺産分割は一応有効ではあるものの、錯誤取消しの可能性があるということになります。