生成AIにも「得意」と「不得意」がある
不安を払拭し、生成AI時代を生き抜くためには、生成AIが得意な分野と不得意な分野、逆に人間が得意な分野をよく把握しておく必要があります。
チャットGPTや新しいビング、あるいはバードといった、誰でも利用できるテキスト生成AIは、膨大な量のテキストを学習させ、さまざまなデータや文献なども追加しています。つまり、すでにあるデータを学習させることでテキストを生成しているわけです。
逆に言えば、学習されていないデータを使ったテキストが生成されることはない、ということになります。すでにあるもの、前例のあるもの、正解とされる答えのあるもの、あるいは論理的な思考によって導き出されるもの、といったテキストを作り出すのは生成AIの得意分野です。
一方、前例や正解のないもの、直感や感性から導き出されるもの、あるいは情緒的なものといったテキストを作り出すのは不得意です。過去のデータを学習しているわけですから、過去のことについては得意ですが、逆に未来のことについての予測や推論といったものは苦手です。
たとえば、チャットGPTに俳句を作らせてみればよくわかります。「1月の季語を使って俳句を作ってください」と指定しても、文字数も適当で、ただ季語を入れた情緒のない、あるいはほとんど意味の通らない文章が出力されたりします(図表1)。
そもそも生成AIには、「俳句」というものがどのようなものなのかわかっていません。俳句の意味や成り立ちはわかっていても、AIで俳句をどう作ればいいのかがわからないのです。
また、ちゃんと文字数を揃え、季語を入れて文章を作っても、それが情緒に訴えたり、人を感動させるものになったりすることは、まったく期待できません。
人間は「生成AIが得意なこと」の「逆」をやれば良い
もちろん、データの学習量が増え、チューニングが進むことで、かなり高いレベルで人間と同じような文章を作成できるようになる可能性はあります。ただし、生成AIは一般的・総花的な、“それなりのものをアウトプットすることが得意”で、与えられた指示に従い、学習したデータによってテキストを生成してくれます。
その特徴がわかれば、生成AIと共存することは簡単です。生成AIの得意なことの逆をやれば良いのです。未来のことや直感的・感性的なこと、あるいは本質的なことです(図表2)。人間の強みを活かし、選択・集中し、尖(とが)りを作っていくことです。
生成AI時代、武器になるのは「教養力」や「人間力」
現在の生成AIは、AGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)への前段階にあたるものです。AGIは人間のような知能を持つ何でもできる人工知能で、人間と同様の知識や能力を持つものです。このAGIが実現化される未来も、そう遠い日ではないかもしれません。
オープンAIのビジョンは、「AGIが人類全体に確実に利益をもたらすようにすること」です。チャットGPTはこのAGIへのステップに過ぎないのです。
私は戦略コンサルタントの仕事をしていますが、資料作成といった業務の多くは、すでに生成AIによって簡単にできるようになっています。そうなるとプロフェッショナルとしての私に残された仕事は、より優れた論点を立てることくらいしか残っていません。そのためには、歴史や哲学、宗教、文学、人間観、世界観といった教養力が重要になってきます。
これはビジネスパーソンにも当てはまることです。生成AIの時代には、スキルの差はほとんど問題になりません。必要なのは、教養力や人間力なのです。これらの力を養うことで、生成AIと共存することが可能になるのです。
田中 道昭
立教大学ビジネススクール教授。戦略コンサルタント。シカゴ大学MBA(企業戦略・ファイナンス・計量経済専攻)。専門は企業・産業・技術・金融・経済等の戦略分析。日米欧の金融機関に長年勤務。テレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」コメンテーター。テレビ朝日「ワイドスクランブル」月曜レギュラーコメンテーター。公正取引委員会独禁法懇話会メンバー等兼務。
主な著書に『GAFA×BATH』(日本経済新聞出版)、『アマゾンが描く2022年の世界』(PHP研究所)、『モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか』(集英社インターナショナル)『経営戦略4.0図鑑』(SBクリエイティブ)、『GAFAM+テスラ 帝国の存亡』(翔泳社)ほか多数。
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