ニュースもテレビも、いまや「AI」が作る時代
前回記事では、生成AIを利用すれば、プログラムが簡単に作成できるようになると述べましたが、実はこのプログラムのなかにはコンピュータ・ウイルスのようなものも含まれます。23年4月には、早くもチャットGPTでサイバー犯罪に悪用できるコンピュータ・ウイルスが作成できることが、専門家の調査によって露呈しています。
この報告を受け、オープンAIではコンピュータ・ウイルスにつながるようなコード(プログラムの一部)を生成しないよう改善したそうですが、悪意のあるユーザーとのイタチごっこになりかねません。
ウイルスとともに迷惑なのが、迷惑メールや詐欺メールの類です。条件を絞って命令すれば、詐欺メールのようなものは簡単に生成できます。そして詐欺メールが簡単に作れるのですから、フェイクニュースといったものも簡単に作成できると考えていいでしょう。
ここ数年、ネット界ではフェイクニュース問題が噴出しています。フェイクニュースとは、虚偽報道、偽ニュースなどとも呼ばれ、事実とは異なる情報やニュースがマスメディアやソーシャルメディアで拡散されることです。
23年10〜11月には、女性アナウンサーが架空の投資を呼びかけるものと、岸田首相が国民にメッセージを語りかけるものの2つのフェイクニュースがX(旧ツイッター)を中心に拡散されました。この映像では、アナウンサーの音声が生成AIを利用して作成されたものだったことが確認されています。
便利な生成AIですが、悪用すればウイルスを作成したりフェイクニュースを作成したりするなど、いくらでも悪事に利用することも可能なのです。
クリエイティブな仕事はもはや「人間の専売特許」ではない
このように、誰もが手軽にニュースなどを作成できるとなると、生成AI時代には記者や作家、画家、漫画家、イラストレーターといったクリエイターの仕事が、どんどん奪われていく危険性もあります。実際、その可能性を危惧して全米脚本家組合のメンバーによる大規模なストライキがハリウッドで起こったのは、本書で述べたとおりです。
テキストでも画像でも、生成AIが作成したものは「盗作」ではないかとする考えもあります。これらの作品の著作権問題も出てきています。しかし、それをきちんとクリアするコンテンツであれば、簡単に、しかもほとんど無料で文章が生成され、写真やイラストが表示されるため、これを利用する企業も増えていくでしょう。
そうなると従来のクリエイティブ系の業種は、壊滅的な打撃を受ける可能性もあります。すでに動画生成AIも実用化されはじめており、ニュースも小説も、コミックも動画も音楽も、人間よりも生成AIで作り出された作品が広まっていく時代が、すぐそこまで来ているのです。
すでにアマゾンでは「生成AIによる自費出版本」が氾濫
23年9月には、アマゾンの自費出版サービスのKDP(Kindle ダイレクト・パブリッシング)では、1日あたりに出版できる本の冊数を3冊までとする制限が追加されました。KDPでアダルト系の写真集や生成AI系の解説書を検索してみれば、テキスト生成AIや画像生成AIで作成された本が、それこそ膨大な数、出版されているのがわかります。
生成AIの発展によっては、そんなクリエイター受難時代に突入してしまうのかもしれません。
田中 道昭
立教大学ビジネススクール教授。戦略コンサルタント。シカゴ大学MBA(企業戦略・ファイナンス・計量経済専攻)。専門は企業・産業・技術・金融・経済等の戦略分析。日米欧の金融機関に長年勤務。テレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」コメンテーター。テレビ朝日「ワイドスクランブル」月曜レギュラーコメンテーター。公正取引委員会独禁法懇話会メンバー等兼務。
主な著書に『GAFA×BATH』(日本経済新聞出版)、『アマゾンが描く2022年の世界』(PHP研究所)、『モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか』(集英社インターナショナル)『経営戦略4.0図鑑』(SBクリエイティブ)、『GAFAM+テスラ 帝国の存亡』(翔泳社)ほか多数。
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