(※写真はイメージです/PIXTA)

団塊世代が「後期高齢者」の年齢となる2022年以降、日本各地で始まると予想される「相続ラッシュ」。とりわけ、「これからの家族の系譜で相続の問題は複雑化し、悩ましいものになっていく」と、不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏は言います。牧野氏の著書『負動産地獄 その相続は重荷です』より、その理由についてみていきましょう。

広い一軒家に一人…「マイホーム」を持て余す妻たち

世の中では一般的に男性よりも女性のほうが長生きです(平均寿命男性81.47歳、女性87.57歳)。また夫婦の年齢構成も、特に高齢世帯になるほど男性のほうが年上である割合が高くなります。つまり一般的な世帯では、平均寿命から考えても、まず男性から亡くなることになります。

 

団塊世代以上、つまり後期高齢者の世帯では妻の多くが専業主婦でした。団塊世代の多くが結婚していた1980年では、専業主婦世帯と共働き世帯の割合はおおむね2対1でした。現在はその割合が完全に逆転して1対2くらいになっていますが、当時は職場結婚でも女性が退職して専業主婦になるのがあたりまえでした。

 

80年代、東京の地価はバブルのピークを目指してうなぎのぼり。団塊世代は都心ターミナル駅から郊外に延びる鉄道沿線にマイホームを求めました。妻にとっては、夫が毎朝毎夕、都心にある会社まで通勤をする。自分は家事、子育てに専念するという完全な分業体制にありました。

 

したがって立地は地価の安い郊外に限定され、自然環境や子供の教育環境が重視されました。お受験が盛んになったのもこの頃から。郊外衛星都市駅前の学習塾には夜になると、子供を迎えに来る車が列をなしましたが、ハンドルを握るのは妻たちでした。

 

子供たちが学校を卒業し、夫が定年退職を迎えると、ローンを必死に返してようやくわがものとなった家の中も、子供部屋が空いてなんだか妙に広く感じるようになります。そしてそれから夫が亡くなると、いよいよこの広い一軒家をどうしたらよいのか妻たちが悩むようになります。

 

夫亡き後の家は、必ずしも快適ではなくなっている

私の知人で、千葉県大網白里市で1990年代初期に大手デベロッパーが分譲したニュータウン内の戸建て住宅に住む女性がいます。夫は5年前に亡くなり、現在は彼女が家を相続して住んでいます。年齢はすでに70歳を超えていますが今でも大変お元気で、地域コミュニティの世話役をやり、地域内にそれなりに友人も多いそうです。

 

ところが彼女に話を聞くと、とにかく早く引っ越したいと言います。理由は、家が広すぎて管理が面倒とのこと。家は普通の戸建て。床面積120m2くらいの4LDKです。

 

ご自身は独り身になって、別に寂しいわけではないそうですが、家の掃除が大変。また駅まではバスが基本。バスは往時よりどんどん本数が減ってしまい不便なことこのうえない。まだ車の運転ができるが、そろそろ免許も返納したい。周囲は年寄りばかりになり街に活気もなく、タウン内にあったスーパーもなくなり、買い物にも苦労する。ところがなかなか希望の値段で家を買う人も現れない。こんな嘆きが延々と続きます。

 

この年代の方々は、夫の会社への通勤と、年収で買うことができる範囲で家選びをしてきました。専業主婦の妻の要望は家族の健康などのささやかなものでした。夫が亡くなり相続によって得た家は、自由な身となった妻たちにとって、必ずしも快適ではなくなっているのです。

 

この知人にどんな家に移りたいのかと聞くと、必ずしも都心に出なくてもよいけれど、マンションがよいと言います。鍵一つで出入りができるし、車に乗らなくても困らない生活がしたいとのことです。

 

これは郊外ニュータウンにかぎったことではありません。夫が亡くなったあと妻が生きる時間は長くなっています。相続する家が必ずしも快適でなく、その維持に汲々とする妻が増えています。

 

昔は、先祖代々の家を守らなくてはならないといった「家」という概念に縛られてきましたが、郊外ニュータウンの家に守らなければならないだけの理由も歴史もありません。また多くの人が都会に出て行ってしまい、人口減少や激しい高齢化が進展する地方で、家だけをどんなに守っても将来が俯瞰できない、そんな事例が増えているのです。

 

残された家という財産が、必ずしも妻たちにとって貴重なものではなくなってきています。家の扱いに悩むのはほとんどが妻、女性たちになるのがこれからの相続問題です。

 

 

牧野 知弘

オラガ総研 代表取締役

 

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※本連載は、牧野知弘氏の書籍『負動産地獄 その相続は重荷です』(文藝春秋)より一部を抜粋・再編集したものです。

負動産地獄 その相続は重荷です

負動産地獄 その相続は重荷です

牧野 知弘

文藝春秋

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