(※写真はイメージです/PIXTA)

昨今は高齢化に伴う相続件数の増加により、相続に関する生前準備の重要性が広まり、「自分ごと」として取り組む親世代・子世代が増えています。しかし、どれだけ周到に事前対策をしたとしてもそこは人の命とお金に関わること――思い描いたとおりになりにくいのが、相続の難しいところです。日本橋中央法律事務所の山口明弁護士が、実例を交えて解説します。

介護を引き受けたのに謂れのない使い込み嫌疑をかけられ……

複数のきょうだいがいるファミリーは、きょうだいのうち1人が親の介護を引き受けていることがしばしばあります。きょうだいそれぞれ「親の介護」に対する認識が大きく異なっていることが相続発生時に露呈し、意見が食い違うことも。

 

たとえば、介護を引き受けてきた子どもは「大変な介護をしていたのだから、相続の取り分は多くて当然」と考えます。一方で、介護をしていなかった子どもは「親のお金を好き勝手使ったに違いない」などと考え、いさかいへと発展することは珍しくありません。

 

法律的には、寄与分が考慮されることはあまりなく、介護をした子どもが期待外れな思いをするパターンが多いです。それどころか、使い込みの嫌疑をかけられ悔しい思いをさせられることすらあります。

 

筆者はこれまで「これほど親に尽くしても、寄与分が考慮されないのであれば、最初から遺言書の作成をしてもらえばよかった」「親のために、これまでたびたび自腹を切っているのに……。使い込みを疑われるくらいなら、介護などしなければよかった」と悲しむ依頼者をたくさん見てきました。

親のお金が数千万単位で使い込まれた?真偽は「藪の中」

使い込みを疑われて悔しい思いをするケースについて触れましたが、実際に親の預金を1人が使い込み、ほかのきょうだいが追求し切れずに悔しい思いをする……というケースもあります。

 

親と同居しているきょうだいに、親の身の回りの世話だけでなく、親の財産管理を依頼していたという場合に起こり得ます。「相続発生後にお金の流れを確認したところ、数千万円単位で使途不明金が発覚する」などはよくある話です。

 

この場合、裁判をしたところで使途不明金が承認されるケースは滅多にありません。よほど極端な使い方をしない限り、法律の視点では「ある程度は仕方ない」という認識がなされることが多く「使ったもの勝ち」となりやすいのです。

 

理由の1つとして、そばにいる人が「権限の範囲外でお金を使った」ことの立証が容易ではないことが挙げられます。それを立証しない限り、裁判で勝てません。

 

筆者がこれまで見てきた「使い込み金額」のうち7,000万円、8,000万円というレベルは珍しくありません。しかし実際、法律の現場では「立証して裁判に勝つのは相当厳しい」というのが率直な印象です。

 

亡くなった方の生活スタイルから推察したとき「生活費にしては多いのではないか?」と思うことがあります。「これまで堅実に暮らしていたのに、急に年間2,000万円も3,000万円も使うわけないのでは?」と思ったとしても、それを立証できずに勝てない……という裁判は、相当あるでしょう。

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