遺言書を活用したい6つのケース
これまで私が2000件の相続案件を見てきて思うのは、「実際の相続は、法定相続分では対応できないケースばかり」ということです。
しかも、「うちには財産がないから、遺言なんて関係ない」という方からのトラブルが増加しています。
そこで私は、遺産分割がスムーズにいかないことが予想されるときは、「遺言書の作成」をお勧めしています。
遺言書に「分割方法」を指示しておけば、相続のトラブルを未然に防ぐことができます。
とくに、次のようなケースの場合は、遺言書が不可欠です。遺言書をつくっておかないと、相続が火種となって、家族間での争いが勃発しかねません。
【遺言が必要なケース】
①分割しにくい不動産がある
大きな財産が「自宅」の土地.建物くらいしかないときは、自宅を取得できなかった相続人から不満が出ます。
②事業用の財産や同族会社の株式がある
個人で事業を経営している場合、その事業の財産を複数の相続人に分けてしまうと、経営の継続が困難になります。特定の相続人に家業を承継させたい場合には、遺言書に書いておく必要があります。
なお、会社を設立して、事業に必要な財産を移行し、承継させたい人に黄金株を移行するのもひとつの方法です。
③特定の人に特定の財産を指定したい
「孫に遺贈したい」「同居して自分の面倒を見てくれた子どもには多く相続させたい」「長男には土地を残し、それ以外の子どもには現金を残したい」といったように、家族関係の状況に応じて財産を分けたいときは、遺言書に記しておきます。
④夫婦の間に子どもがいない
夫婦間に子どもがおらず、親がすでに亡くなっている場合、兄弟姉妹が相続人になります。このとき、配偶者と兄弟姉妹は肉親ではないため、もめることになりがちです。
⑤相続する人がいない
相続人がいない場合は、遺産は国庫に帰属します。それを望まないときは、お世話になった人などに遺産を譲る旨の遺言書を作成しておく必要があります。
⑥先妻との間に子どもがいる
先妻の子と後妻との間では、遺産の取り分を主張する争いがよく起こります。争いを防ぐには、遺言書を残して、遺産の配分をはっきりさせておくことです。
「自筆の遺言書」は無効になってしまうリスクも
以前、こんな遺言書を見たことがあります。
ある女性が、A4用紙20枚にもわたって、「長男の嫁の悪口」を書き連ねていたのです。
要約すると「こんなひどい嫁をもらった長男には、財産は残さない」ということでした。
ですが、悪口が書いてあるだけの遺言書に効力はありません。この遺言は無効になりました。
遺言書の種類、つくり方は法律で定められていて、それ以外の方法で作成されたものは無効です。
遺言には、大きく分けると、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類あります。
①自筆証書遺言
遺言者が自分で全文、日付、氏名を書いた遺言書です。すべて「手書き」が条件で、パソコンや代筆は無効です。
遺言者がひとりで作成できるので、費用もかからず、簡単です。ですが、法的に有効な自筆証書遺言にするには、しっかりとした準備.知識が必要です。
②公正証書遺言
公証役場(公正証書の作成を行う官公庁)で作成してもらう遺言書です。
公正証書遺言をつくるには所定の手数料がかかりますが、その代わり、作成した公証人役場に保管されるので、偽造や変造のおそれがなく、法的根拠が高くなります。
自筆証書遺言は簡単ですが、専門家が書くわけではありませんから、あとになって不備が見つかり、無効になることも少なくありません。
安全性・確実性の面で考えると、手数料を支払ってでも、公正証書遺言で遺言を残したほうがいいでしょう。