妻からの意外なる提案
中田さんも仕事を辞めた後のあてもないときでしたので、「まあ賃貸で貸せれば、少しは収入の補填になるかもしれない」と、自宅に帰って、そんな話を奥さんにしました。
すると、意外な話が奥さんの口から飛び出しました。
「その施設、あなたがやればいいじゃない! 別に私も田舎に帰ってもいいわよ。私も実家に近くなるし」
「えーーっ!?」
中田さんは、思いも寄らない奥さんの言葉に頭が大混乱しました。確かに、奥さんも同じ奈良県民でした、たまたま東京の仕事で知り合って結婚しましたが、お互い奈良県出身というのも、意気投合した要因の1つでした。
「う〜ん……」
と中田さんが考えていると、
「私、通所介護施設ならやってみたいわ」
と畳み掛けるように言葉をつなぎました。実は、中田さんの奥さんは、子供さんが手を離れた時点から、近くの老人施設でヘルパーの仕事をしていたのです。仕事から帰ってくると、「自分の親くらいの人の面倒を見ていると、父や母が元気なのか、いつも気になるの」とよく言っていました。
地元の奈良に帰って仕事をすることに関しては、奥さんのほうが積極的なくらいでした。
しかし、中田さんはまったくの門外漢で、自分が通所介護施設の経営者になるなんてことは、到底考えられませんでした。再度、中田さんは地元に向かい、谷口さんに相談することにしました。
「俺がこの実家で通所介護施設するというのは可能だろうか?」
谷口さんは、「まったく素人のお前が突然やると言っても難しいから、ある程度、専門家のアドバイスを受けながらなら、運営は可能だろう。この辺は高齢者が急激に増えているので、施設の需要は十分ある」と話してくれました。