生命保険料控除とその「税負担軽減効果」
まず、生命保険料控除のしくみと、税負担軽減効果について説明します。生命保険料控除は、生命保険等の保険料の一部について、所得税・住民税の計算上「所得控除」を受けられるものであり、以下の3タイプがあります。
【生命保険料控除の3つのタイプ】
・一般生命保険料控除:生命保険(定期保険、終身保険等)、変額個人年金保険が対象
・介護医療保険料控除:医療保険、がん保険、就業不能保険等が対象
・個人年金保険料控除:個人年金保険(変額個人年金保険を除く)が対象
控除を受けられる額は、「新制度」(2012年以降に加入した保険)については[図表1]の通りです。
これを用いれば、最大で12万円の所得控除を受けられることになります。ただし、そのためには、年間の保険料が合計24万円以上(月2万円以上)で、かつ各タイプそれぞれ年8万円以上(月6,666円以上)でなければなりません。
注意しなければならないのは、この生命保険料控除は「節税」ではないということです。あくまでも、必要な保険に加入した場合に、その一部について税負担を軽減するというものです。生命保険料控除を受けることを目的として保険に加入するものではありません。貴重なお金の無駄遣いになってしまいます。
政府・与党が検討する案の内容と批判
政府・与党により検討される見込みなのは、金融庁が「令和6年度(2024年度)税制改正要望」で提出している案です。実は、金融庁が生命保険料控除の拡充を要望するのは今回が初めてではありません。「平成27年度(2015年年度)税制改正」から毎年、内容は多少変わりつつも、継続して要望しています。
金融庁の案の内容は、以下のように、枠を拡充した上で、扶養する子どもがいる場合はさらに優遇するというものです。
【扶養する子どもがいる場合】
・「一般生命保険料控除」の各控除限度額を引き上げる(所得税6万円、地方税4.2万円)
・「介護医療保険料控除」「個人年金保険料控除」の各控除限度額を引き上げる(所得税5万円、地方税3.5万円)
・合計適用限度額を引き上げる(所得税16万円、地方税11.2万円)
【扶養する子どもがいない場合】
・各控除限度額を引き上げる(所得税5万円、地方税3.5万円)
・合計適用限度額を引き上げる(所得税15万円、地方税10.5万円)
この点について、各方面から以下のような声が上がっています。
——優先順位がおかしい
——その前に16歳~18歳の扶養控除の減額をやめるべき
——その前に年少扶養控除を復活させるべき
——生命保険会社を儲けさせるだけ
——保険にはもう十分に入っている。これ以上保険料を負担しろというのか
前述のように、生命保険料控除は、あくまでも、必要な保険に加入した人の税負担を軽減するというものにすぎません。もし、少子化対策で保険に関して重要なことがあるとすれば、「保険料をいくら払ったか」ではなく、「必要な保険に加入したか」ということです。そして、それは「生命保険料控除の拡充」と直接の関連性があるわけではありません。
それよりも、「扶養控除の額の維持」「年少扶養控除の復活」のほうが、よほど簡潔だし直截的で、こちらを先にやるべきではないか…批判の声を上げている人々にとっては、「生命保険料控除の拡充」を優先することが「感覚がズレている」と感じられるようです。