調査官も思わず「本当に裏金なの?」…200万円以下を「50回以上に分けて」海外から受取。税関の目をすり抜ける「まさかの脱税手法」【元マルサの税理士が解説】

調査官も思わず「本当に裏金なの?」…200万円以下を「50回以上に分けて」海外から受取。税関の目をすり抜ける「まさかの脱税手法」【元マルサの税理士が解説】
※画像はイメージです/PIXTA

2003年、BSE(牛海綿状脳症)によってアメリカ産牛肉が輸入停止となった際、実は日本でこの騒動を悪用した「脱税スキーム」が流行り、脱税事件が多発していたと、元マルサの税理士である上田二郎氏はいいます。筆者の実体験から、当時日本で起きていた“巨額の脱税事件”の裏側をみていきましょう。

海外取引は国税の“アキレス腱”

ネット情報を丹念に探っていると、豚肉輸入業者の暴露記事と思われる「差額関税脱税スキーム」と題した記事が引っかかった。

 

記事には差額関税制度の概要と免れるための具体的な方法が書かれていた。手口は驚くほど簡単で、海外での架空取引によって豚肉の価格を吊り上げてから輸入するだけ。

 

2002年になると日本では国産豚肉の価格が高騰し、市場価格が基準価格を大きく上回っていたが、アメリカ産は安定的に1㎏約300円で推移していた。そのため410円で輸入しても、更に高値で売れるのでぼろもうけだった。輸入豚肉は主にハムやソーセージなどの加工肉の材料になる。

 

ロックオンしたF社からおぼろげに見えるのは、差額関税制度を悪用した国際脱税で、背後に輸入豚肉を使用するハム・ソーセージ加工業者が浮かび上がる。

 

調査を進めると、代表者は1年前まで貿易会社に勤務していて、輸入豚肉担当だったことが判明した。これを裏付けるように、代表者の海外渡航記録からはデンマークなど豚肉の産地を飛び回っていたことも分かった。

 

さらに、為替相場を丹念に調査したところ、ターゲットが国外送金等調書に捉えられた日は、相場が急変して円安に振れていたことを掴んだ。つまり、ターゲットが200万円ギリギリで送金した後、急激な円安によって予期せずに200万円を超えてしまったのだ。

 

これが「脱税の意図」の確信になった。

 

内偵調査どおりの結末だが…

いよいよ強制調査。代表者は開口一番から不正を全面的に認め、結果はあっさり判明した。

 

ターゲットはアメリカの食肉会社Mフーズと結託し、国内の豚肉輸入業者と共謀して輸入の際に賦課される差額関税を免れるスキームを構築。Mフーズが得た利益の1%を成功報酬とする裏契約を結び、スイスに開設した銀行口座に振り込ませ、そこから国内の外資系銀行の口座に還流していた。

 

ターゲットが得た裏報酬が2億円にもなったため、Mフーズの儲けは200億円にも達した計算になる。

 

この事案の解明によって、税関が同じ手口の脱税に次々に切り込んでいった。「中部地方の輸入食肉業者の社長逮捕63億の脱税」、「四国の食肉業者の社長ら5人逮捕100億の脱税」などの記事に記憶がある人もいるだろう。

 

しかし、取り戻したお金は2,000億円とも噂される蒸発した差額関税の、ほんの一部に過ぎない。

 

 

上田 二郎

元国税査察官/税理士

 

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