夫逝去後、専業主婦の妻が受給する「衝撃の年金額」
日本は世界屈指の長寿国であり、2022年の男性の平均寿命は81.05歳、女性は87.09歳で、女性のほうが男性より約6年度ほど長い(厚生労働省『簡易生命表(令和4年)』)。そのため、年齢を重ねてから「おひとりさま」として生きていく女性は多くなる計算だ。
山田さん(仮名)は65歳の専業主婦。短期大学を卒業後は会社員の夫と結婚し、ずっと内助の功を尽くしてきた。定年退職した66歳の夫との間にお子さんはいないが、夫婦の関係は良好で、これから2人でのんびりと年金生活を楽しもうと話し合ってきたという。
「夫は転勤族でしたが、私は環境が変わるのが楽しく、つらいと思ったことはありませんでした。むしろ、各地にお友達ができるのがうれしくて…」
山田さん現在の住まいは、夫の最後の勤務地となった神奈川県逗子市。夫が海の見えるマンションをいたく気に入ったことから、そのまま定年後も住み続けてきたという。
山田さん夫婦は自宅を持つことは想定しておらず、いずれは2人で老人ホームに入ろうと話してきた。
ところが、人生は思い通りには進まない。健康不安のなかったはずの夫が、心筋梗塞で急死してしまったのだ。
「夫が亡くなったとき、私たちはいずれも年金を受給していました。夫の厚生年金は毎月約17万円、私は基礎年金のみで6万6,000円。二人合わせておよそ24万円です」
夫を亡くしたあとの妻は、夫の厚生年金を「遺族厚生年金」として受け取ることができるが、夫が支給されていた老齢厚生年金のうち、報酬比例部分の4分の3のみの金額となる。
山田さんの夫は毎月約17万円の年金を受け取っていたというが、そこから老齢基礎年金部分の6万6,000円を差し引くと、老齢厚生年金の部分は10万円弱。山田さんに支給されるのは、その4分の3となる8万円ほど。それに加えて、自身の老齢基礎年金を受け取るので、毎月約15万円程度の年金額になる。
夫との思い出が詰まった部屋も、家賃が払いきれず…
山田さんはこの事実に「とてもではないですが、生きていけません…」とうつむく。
女性の平均寿命を87歳だとした場合、いま65歳の山田さんはあと20年以上ひとりで生きていくことになる。
今後の年金の受給額では、夫との思いで詰まった賃貸マンションも、家賃の支払いが厳しくなるため、残る選択肢は貯蓄の取り崩ししかない。
山田さんの夫は、かつて、死亡保障300万円の終身保険と死亡保障2,700万円の定期保険に加入していたそうだが、定年前後の家計の見直しのためか、定期保険の契約を止めてしまっていた。そのため、現状では300万円の終身保険のみしか払われないという。
「なぜ契約更新してくれなかったのでしょう。どうしましょう、私、ひとりでは生きていけない…」
山田さんは激しくむせび泣くと、ハンカチで顔を覆った。
高齢女性がひとり暮らしの部屋を借りるのは大変
現在のマンションの家賃が払えないのなら、さらに家賃の安い賃貸物件へと引っ越すしかない。だが、高齢女性が1人暮らしのための部屋を探すのは大変だ。オーナーから敬遠されるケースはかなり多い。
そうなると、可能性があるのはUR都市機構の物件だ。URの賃貸住宅なら保証人は不要のためハードルは下がる。だが、毎月の収入が約15万円となれば、家賃は5万円程度に押さえなければならない。
家賃5万円の支払いも厳しいとなれば、URの「高齢者向け優良賃貸住宅」、略して「高優賃」には家賃の減額制度がある。60歳以上の単身者で毎月の所得が15万8,000円以下なら、20%減額してくれる制度で、家賃5万円の物件に4万円で住むことが可能だ。
高齢者向け優良賃貸住宅には、家賃減額制度だけでなく、事故、急病など万一の場合に提携事業者に緊急通報するサービスもある。ほかにも、床の段差をほとんどなくし、要所に手すりが設置されているなど、高齢者の使い勝手を考えた作りとなっている。
苦しくても、貯蓄はできるだけ維持して生活を切り詰めるしか…
もしも家賃4万円とした場合、毎月の生活費として11万円は使用できそうだ。山田さんから聞いた家計の状況は、下記のようになっている。
【1カ月の家計の例】
収入15万円
家賃4万円
食費:5万円
水道光熱費:2万円
日用雑貨:1万円
スマホ代:5,000円
医療費:2万円
その他:2万円
合計 16万5,000円 → -1万5,000円
年齢を重ねれば、必然的に医療費・介護費用は増えていく。それを考えれば、貯蓄を大きく取り崩すことはできない。そのため、家計をギリギリまで切り詰めるしかない。
節約できる固定費は節約し、必要最低限で生活するしか、今後、山田さんが生きていくすべはないのである。
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