3. 遺留分侵害額請求に対する期限の許与の請求方法を確認する
(1)裁判所による期限の許与
遺留分侵害額の金額を最小限にしたとしても、遺留分侵害額請求を受けた受遺者や受贈者は、遺留分権者に金銭を支払わなければなりませんので、負担は大きくなります。受遺者らの負担軽減の観点から、受遺者らは裁判所に対して、金銭債務の全部または一部の支払につき相当の期限の許与を請求することができます(民1047⑤)。
遺留分侵害額請求がなされると、受遺者や受贈者は金銭で支払をしなければなりませんので、期限の許与が認められないと、請求時点から遅延損害金は発生してしまうことになります。受遺者や受贈者が直ちに金銭を準備できない可能性もあるため、酷な結果にならないように、裁判所が期限を許与することができる制度となります。
(2)期限の許与の請求方法
裁判所に期限の許与を請求するについては、これを抗弁として位置づけるか、独立の訴えとして位置づけるか見解が分かれるところですが、受遺者や受贈者や抗弁として主張すれば良く、反訴または別訴の提起までは要しないと解釈されています(片岡武・管野眞一編『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務〔第4版〕』586頁(日本加除出版、2021))。
(3)本事例について
本事例では、妻に全ての財産を相続させる遺言がなされると、相続債務も含めて全て妻が相続することになりますが、妻は、長男から、5,000万円の遺留分侵害額請求権を行使される可能性があります。妻が、直ちに5,000万円を準備できない場合には、長男からの遺留分侵害額請求に対し、妻は裁判所に期限の許与を求めるべきです。
もっとも、期限の許与にも限界がありますので、将来、長男から遺留分侵害額請求権を行使された場合に備えて、今からでも流動資産を形成しておく、あるいは、同請求権が行使されないよう、長男に相当額の財産を贈与しておくなどの事前対策を講じておくことが最も有益だと考えます。
〈執筆〉
佐竹雅(弁護士)
平成28年 弁護士登録(東京弁護士会)
〈編集〉
相川泰男(弁護士)
大畑敦子(弁護士)
横山宗祐(弁護士)
角田智美(弁護士)
山崎岳人(弁護士)
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