税務上適正評価額の算定...取引価格は時価の80%以上
なお、参照すべき裁決・裁判例・判例は多岐にわたるが、本案件の評価につき参照した事例について下に列挙する※8。
※8 判例概略は、山田俊一『難問事例のさばき方 第2集』(ぎょうせい、2016)90頁~ 92頁を参照しています。
〇大阪地裁昭和53年5月11日判決
相続対策に伴う株式の売買価格が問題となった事例。裁判所は評価の困難性を認め、各種の評価方法を併用して時価を算定し、著しく低い対価とは3/4未満(75%未満)と認定。
〇大阪地裁昭和62年6月16日判決
時価として類似業種比準価格を採用し、著しく低い価格の判断基準として時価の60%を用いて判断した事案。
〇東京地裁平成19年8月23日判決
親族間で相続税評価額を対価とする譲渡(譲渡損失が生じて、損益通算した申告がなされた)が行われたところ、課税庁はその対価は「著しく低い」として、みなし贈与を適用して更正処分をしたところ、裁判所は相続税評価額を譲渡対価とした場合の、その対価は「著しく低い対価」とは言えないとして課税処分を取り消した事案(時価の約80%)。
〇平成13年4月27日裁決
納税者は親子間の底地売買価格は時価を上回ると主張したが、審判所は公示価格を基にして時価額4,566万1,363円を算定し、売買価格(時価の59.4%)との差額は1,850万1,000円にも達するので、著しく低い価額の対価にあたるとした事案。
〇平成15年6月19日裁決
原処分庁は、本件の土地建物売買(当該売買価額が時価に占める割合は79.3%)は著しく低い対価に当たると主張したが、売主の祖母は相続によって取得した土地家屋(長期に保有)を、借入金を返済するため、買主の孫は自らの将来を考え、金融機関から融資を受けて土地家屋を買い受けたもので、売買価格は固定資産税評価額などを斟酌して決定し、この土地建物の相続評価額を超え、これらを勘案すると、著しく低い対価による譲り受けには当たらないと、判断された事案。
<上記事案のまとめと所感>
上記事案を総合的に勘案すると、時価に取引価格の占める割合が80%であるときは「著しく低い対価」に当たらないと思われる。一方で、60%未満では著しく低いと認定された事案があり、また時価の3/4(75%)未満を著しく低い価額と認定した事例もある。
したがって、過去の裁決・裁判例・判例からは総合的に、「著しく低い対価」の「低い」程度とは、租税の安定性の見地から時価の約80%程度きることであり約20%を安全率と考えるのが無難である。
3.譲渡後、各書類を書き換える
■譲渡実行後
・株主名簿の書換え
・法人税別表二
の書換えを行います。
先述の法務デューデリジェンスにおける過去の株主来歴はこれと株主総会議事録、取締役会議事録をトレースして行いますが、将来においてトレースできる資料を保全することを意識します。
伊藤 俊一
税理士
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