「非上場株式」を同族関係者に譲渡したい...「税務調査」で指摘されないための必要書類と株価の適正な算出方法を税理士が解説

「非上場株式」を同族関係者に譲渡したい...「税務調査」で指摘されないための必要書類と株価の適正な算出方法を税理士が解説

多額のお金が動く、株式の譲渡。株式の譲渡において、特に取引相場のない株式(非上場株式)を譲渡する場合には注意が必要です。適正な流れに基づき、必要書類を用意しなければ、あとあと税務調査で指摘される可能性もあると、税理士の伊藤俊一氏はいいます。本記事では、同氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)から、非上場株式の譲渡について解説します。

2.譲渡には契約書、株価算定書の作成が必要

■譲渡実行

株式譲渡契約書及び稟議書あるいは株価算定書を用意します。

 

同族特殊関係者間における譲渡においては税務上の適正評価額が当局念査項目になりますので、株価算定書通りの価額で譲渡する場合、あるいはそれとずれたとしてもその理由が株価算定書に詳細記載が施している場合、稟議書は必須ではありません

 

なお、株主総会議事録、又は取締役会議事録はいつも通りですので本書では詳細は割愛します。

 

(1)株式譲渡の契約書の作成

株式譲渡契約書

 

〇〇(以下、譲渡人という)と 〇〇(以下、譲受人という)とは、以下のとおり契約を締結した。


第1条 譲渡人は譲受人に対し、令和〇年〇月〇日をもって※3株式会社〇〇株式〇〇株を代金〇〇円で売り渡し、譲受人はこれを買い受けた。なお、当該株式は各々、別紙の株式数を譲り受けするものとする※4


第2条 譲受人は譲渡人に対し、令和〇年〇月〇日までに代金〇〇円を支払う。


第3条 譲渡人は譲受人に対し、上記株式売買について、株式会社〇〇の取締役会が承認済みであることを保証する。


本契約の締結を証するため本書5通を作成し、各自記名捺印※5のうえ各1通を保有する。

 

令和〇年〇月〇日※6※7(以下略)

 

※3 受渡日。法人税法:原則約定日基準消費税法:株券発行会社の場合、株券の引渡し日基準。同時履行の抗弁権により通常同一日となります。

※4 株券発行会社の場合、別途株券の引渡し条項を付与します。

※5 金額的に重要性があるものは、印鑑証明書、場合よっては確定日付が必要となります。

※6 約定日。

※7 週刊T&Amaster「贈与契約に顕名なしも、代理行為は有効(2022年10月3日号・№948)」もご参照ください。

 

(2)株価算定書の作成...「所得税基本通達59-6」に基づいた資料を作成

株価算定書例

下記は個人から法人売買の例になっていますが、個人から個人、法人から個人、法人から法人でも項目は一緒です。しかし、当然ながら適用される税務上適正評価額は変わります。

 

〈パターン1〉

1 評価目的代表取締役社長××が〇〇株式会社株式をホールディングス(仮)へ売却する場合の評価額を算定すること。


2 評価額
上記1の評価目的より、〇〇株式会社株式については、所得税基本通達59-6の規定を適用して評価額を算定した。

〇〇株式会社株式評価額
評価基準日 令和4年2月10日時点
評価額 1株当たり1、000円
所得税基本通達59-6
(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)

59-6 法第59条第1項の規定の適用に当たって、譲渡所得の基因となる資産が株式(株主又は投資主となる権利、株式の割当てを受ける権利、新株予約権(新投資口予約権を含む。以下この項において同じ。)及び新株予約権の割当てを受ける権利を含む。以下この項において同じ。)である場合の同項に規定する「その時における価額」は、23 ~ 35共-9に準じて算定した価額による。

この場合、23 ~ 35共-9の⑷ニに定める「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」については、原則として、次によることを条件に、昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(法令解釈通達)の178から189-7まで((取引相場のない株式の評価))の例により算定した価額とする。

(1)財産評価基本通達178、188、188-6、189-2、189-3及び189-4中「取得した株式」とあるのは「譲渡又は贈与した株式」と、同通達185、189-2、189-3及び189-4中「株式の取得者」とあるのは「株式を譲渡又は贈与した個人」と、同通達188中「株式取得後」とあるのは「株式の譲渡又は贈与直前」とそれぞれ読み替えるほか、読み替えた後の同通達185ただし書、189-2、189-3又は189-4において株式を譲渡又は贈与した個人とその同族関係者の有する議決権の合計数が評価する会社の議決権総数の50%以下である場合に該当するかどうか及び読み替えた後の同通達188の⑴から⑷までに定める株式に該当するかどうかは、株式の譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。


(2)当該株式の価額につき財産評価基本通達179の例により算定する場合(同通達189-3の⑴において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、当該株式を譲渡又は贈与した個人が当該譲渡又は贈与直前に当該株式の発行会社にとって同通達188の⑵に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。


(3)当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は金融商品取引所に上場されている有価証券を有しているときは、財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については、当該譲渡又は贈与の時における価額によること。


(4)財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。

 

〈パターン2〉

1 評価目的
代表取締役社長××が〇〇株式会社株式をホールディングス(仮)へ売却する場合の評価額を算定すること。


2 評価額
上記1の評価目的より、〇〇株式会社株式については、所得税基本通達59-6の規定を適用して評価額を算定した。

 

〇〇株式会社株式評価額
評価基準日 令和4年2月10日時点
評価額 1株当たり1,000円
〇所得税基本通達59-6
パターン1と同じ。

 

なお、実際の売買にあたっては実務慣行上10%のディスカウントを行う場合もある。その場合の評価額は下記の通りである。

 

〇〇株式会社株式評価額
評価基準日 令和4年2月10日時点
評価額 1株当たり900円

 

〈パターン3〉

1 評価目的
代表取締役社長××が〇〇株式会社株式をホールディングス(仮)へ売却する場合の評価額を算定すること。

 

2 評価額
上記1の評価目的より、〇〇株式会社株式については、所得税基本通達59-6の規定を適用して評価額を算定した。

 

〇〇株式会社株式評価額
評価基準日 令和4年2月10日時点
評価額 1株当たり1,000円
〇所得税基本通達59-6パターン1、2と同じ。

 

なお、実際の売買にあたっては実務慣行上10%のディスカウントを行う場合もある。その場合の評価額は下記の通りである。

 

〇〇株式会社株式評価額
評価基準日 令和4年2月10日時点
評価額 1株当たり900円

 

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伊藤 俊一

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