税率が15倍になっても税収は「横ばい」
このように、たばこ税の税率は1985年以降引き上げられ、高率になっています。財務省は、2018年以降のたばこ税の増税の趣旨について以下のように説明しています(財務省「たばこ税の見直しについて」参照)。
「財政物資」とは、国の財源確保のために、どの程度税金をかけるかを柔軟に決めてよいものをさします。
たばこは特殊な嗜好品であり、生活必需品ではありません。また、成人病のリスクや受動喫煙の問題も指摘されています。したがって、税金を重くしても国民生活にダメージを与える可能性が低いということで、税率を柔軟に設定できるということです。
実際に、財務省の資料によると、たばこ税の税収の額は、1985年に1.75兆円だったのが2021年時点で2.03兆円と、16%しか増えていません(財務省「たばこ税の見直しについて」参照)。
つまり、たばこ税が15倍に増税されてきたのに対し、たばこの消費量は著しく抑えられてきたという事実があります。これは、増税を理由としてたばこをやめた人や本数を減らした人がいたということを示しています。
たばこ税の増税により得られる「効果」は?
このように、たばこ税を増税しても、そのたびに消費量が減少し、税収が増えないのであれば、増税の意味がないのではないか、という疑問が浮かびます。
税収の増減だけみれば、たしかにそうです。しかし、たばこの消費量の減少には別の側面があります。
厚生労働省の研究班がまとめた「受動喫煙防止等のたばこ対策の推進に関する研究」(2018年)は、2015年の喫煙に伴う超過コストは2兆5,000億円であったと算定しています。
このうち、「超過医療費」は能動喫煙によるものが1兆3,594億円、受動喫煙によるものが3,295億円の合計1兆6,888億円でした。また、「超過介護費用」は2,617億円、「火災関連費用」は975億円、「清掃関連費用」は16億円となっています。
たばこ税の増税がたばこの消費量の減少につながるのであれば、これらの超過コストの軽減につながることになります。特に、医療費と介護費用が軽減されれば、社会保険料と公費負担の軽減につながります。
財務省によれば、2023年の租税負担率と社会保障負担率を合計した「国民負担率」は46.8%(財政赤字を加味すると53.9%)になる見通しです。たばこ税の増税は、喫煙者の税負担を重くする一方で、その他の国民の実質的な負担軽減につながる可能性があるものといえます。
ただし、近年の医療費の増大は、喫煙以外にも医薬品の価格上昇や高齢化の進行も影響しています。また、喫煙者の数は減少の一途をたどってきています。したがって、今後は、たばこ税の増税により得られるコスト削減効果は限定的になっていくことが見込まれます。
また、たばこ税の税率をあまりに大きくすると他の「財政物資」とのバランスを失うことになりかねません。
これらのことからすると、国会・政府には、これからたばこ税を増税した場合、どのような効果が得られるのか、慎重に試算したうえで検討することが求められます。
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