(※画像はイメージです/PIXTA)

多様性の時代、結婚への考え方も人それぞれということなのだろうか、令和のいまは独身者が増えている。生涯独身が前提なら、自分の老後は自分でどうにかするしかなく、そのために40代からストイックな資産形成を行っている人もいる。しかし、男性の場合、統計を見ると必ずしも計画通りの展開とはならないケースもあるようだ。

40代後半サラリーマン、生涯独身を前提に人生設計

結婚に対する価値観は、昭和から令和にかけて大きく変化を遂げている。

 

2022年の婚姻数はおよそ50万組。婚姻数がピークを迎えたのは1972年の109万組で、以後1980年代後半から2000年に復調の兆しをみせるも、その後は減少の一途を辿っている。

 

2020年の国勢調査によると、男性の生涯未婚率は28.3%、女性の生涯未婚率は17.8%だった。ここでいう「生涯未婚率」とは、45~49歳・50~54歳の未婚率の平均を指すが、30年前の1990年調査における生涯未婚率が「男性5.6%、女性4.3%」だったことを考えると、現在の日本では「生涯独身」となる割合が大きく増えていることがわかる。

 

昭和から平成初期頃までは「結婚してこそ一人前」といった社会的通念があり、独身のままでいると、親族はもちろん、会社の上司などから圧力をかけられることも多かった。現在は、実の両親やきょうだいならともかく、他人が個人のプライベートな事情に干渉するのは明確なハラスメントであり、許されないという流れができている。

 

40代後半のサラリーマン男性、佐藤さん(仮名)は、独身サラリーマンの平均像のような生活を送っている。

 

「私は就職氷河期世代で、就職のときは本当に大変でした。運よく新卒で滑り込みましたが、その後は振り落とされないように、とにかく必死で働きましたよ。気がついたらいまの年齢になっていた…という感じです。結婚を考えた相手もいましたが、うまくいきませんでしたね。これも縁ですし、別に後悔はないです」

 

佐藤さんはいま、生涯独身を前提に人生設計を立てているという。

 

大卒・正社員の場合、月収(所定内給与額)は46万600円、残業代・ボーナス込みの推定年収は756万4,000円。勤め先が大企業(従業員1,000人以上規模)であれば、月収で52万7,000円、推定年収は901万7,200円だ。

 

収入に焦点を当てる限り、ゆとりある生活が遅れる可能性は高いだろう。「結婚したら、お金も時間も自由に使えなくなりますので…」と佐藤さんは語るが、同様の理由から結婚を選択しないという人も多いのかもしれない。

 

だが、お金や時間を好きなだけ使えるいまの生活はいつまで続けられるのだろうか?

 

老後資金について不安を抱える人は少なくない。実際に、60歳で定年退職してから、再雇用で65歳くらいまで働き年金生活に入る人のほうが多数派だ。

 

大学を卒業してから平均的な水準の給与を受け取り、60歳からは再雇用の嘱託社員等となって65歳まで働くと仮定すると、65歳で手にする厚生年金は単純計算で11万5,000円程度。国民年金を満額受け取ったとして、1ヵ月の年金額は17万~18万円程度、手取りでは14万~16万円ほどになりそうだ。単身高齢者の1ヵ月の生活費を考えればギリギリではないか。

 

◆65歳以上の単身男性の1ヵ月の生活費

 

消費支出:148,918円

(内訳)

食料:40,938円

住居:14,242円

光熱・水道:14,748円

家具・家事用品:4,631円

被服及び履物:2,146円

保健医療:8,124円

交通・通信:19,409円

教養娯楽:16,287円

その他の消費支出:28,393円

 

出所:総務省『家計調査 家計収支編』(2022年平均)より

 

大卒後、正社員として平均的な給与を得てきた人であれば、年金だけでギリギリ生活は可能かもしれない。しかし、問題は日常の生活費だけではない。要介護になったり、認知症を発症したり…等、高齢となった自分自身では対処しきれない問題をはらんでいる。

 

そうなると「老人ホーム」への入所も、有力な選択肢になるかもしれない。

「迷惑はかけたくない」必死に働く未婚男性に残酷なリスク

ここで提案している「老人ホーム」とは、介護不要の高齢者が入居する自立型老人ホームのことだ。高齢者限定のサービスアパートメントといったイメージであり、食事等の提供も受けられるが、要介護になったときは退去となる。しかしその後は、連携の施設へと移転できるケースが多い。

 

コストは入居金0~数億円、月額費用は10万~40万円と幅があるが、一般的な老人ホームに比べればやや高額とはいえ、頼る人がいない単身者には、不安解消の有力な選択肢となるだろう。

 

佐藤さんと同じく独身サラリーマンの鈴木さん(仮名)は、40代前半と比較的若いが、いまから「将来は老人ホームに入る」と決意しており、入居費用の準備に余念がない。

 

「うちの両親は、父方の祖父母の介護で大変だったんです。でも、そんな両親も年を取り、今度は兄夫婦のところに身を寄せて面倒を見てもらっています。兄は〈オレは長男だから当たり前〉といってくれますが、ならば、独身の自分が迷惑をかけちゃいけないなと思いましてね」

 

「結婚ですか? ないない、ないですよ(笑)。できるなら、もっと若いうちにしているんじゃないですか…」

 

鈴木さんはiDeCoやNISAで資産形成に努めているほか、仕事中の飲み物は会社のウォーターサーバーのみという徹底ぶりで、食費も節約。缶コーヒーなど何年も買っていないという。

 

「仕事はIT関係です。若いスタッフと一緒に、遅くまで頑張っていますよ!」

 

鈴木さんの心がけと資産形成への頑張りには頭の下がる思いだが、もしかしたら、徒労に終わってしまうかもしれない。その理由は未婚男性の平均寿命のデータだ。

 

厚生労働省『人口動態調査』(2021年)によると、男性の寿命の中央値は82歳だが、配偶関係別では、「配偶者あり」は82歳、「配偶者なし」は67歳と、大きく乖離している。統計上でみるなら、男性単身者の半数は70歳を迎えることなく死んでいる。

 

「配偶者なし」の男性の死因の最多は「悪性新生物(ガン)」で23.1%。「配偶者あり」の男性もガンによる死亡が最多であり、未婚男性より10ポイント以上高いのだが、これは高齢になるほどガンの罹患率が上がることが理由だ。有配偶者は長生きするので、ガンで亡くなる人の割合が多くなる。

 

一方、未婚男性の死因で有配偶者よりも多いのが「自殺」だ。未婚男性の死因の6.8%を占め、有配偶者よりも5ポイント以上も高い。

 

仕事で頑張り、私生活も切り詰めるストイックな鈴木さんに上記のデータを見せて説明すると、一瞬言葉を失った。

 

「…では、貯金が無駄になる可能性も、かなり高いということですよね?」

 

沈黙ののち、鈴木さんから出た質問だが、これはある意味正しく、ある意味正しくない。未婚男性が70歳前に亡くなるケースが多いからといって、老後の備えをおろそかにしていいことにはならない。なぜなら、十分な貯蓄を持たず年金生活となり、生活苦に陥る可能性もあるからである。

 

鈴木さんの行動はなにも間違っていない。気をつけるべきは、生涯独身にしろ、そうではないにしろ、とにかく健康を維持して計画的な資産形成をおこなうことだ。このふたつが揃ってこそ、人生の終盤を安心して過ごすことができるのである。

 

 

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