◆日本では「値上がり」が続く…そのワケは?
次に、日本での価格推移をみてみましょう([図表3]参照)。
2018年(7月)と2019年(5月)はいずれも「13インチ」が19万8,800円、「15インチ」は25万8,800円で、値上げはありませんでした。いずれの時点でも、為替相場は1ドル110円前後で推移していました。
しかし、2021年(10月)以降、一貫して値上げされ続けています。
2021年(10月)のバージョンは「14インチ」が23万9,800円、「16インチ」が29万9,800円でした。ところが、その後、2022年6月には2021年(10月)のバージョンについて「円安」を理由とする価格改定が行われました。これにより、「14インチ」が3万5,000円値上げされ27万4,800円に、「16インチ」が3万9,000円値上げされ33万8,800円になりました。
為替相場は2021年10月当時1ドル114.1円だったのが、2022年6月には1ドル130.77円にまで達しており、このときの値上がり分はほぼ、円安になった差額分にあたります。
さらに、2023年1月に発表されたバージョンは、「14インチ」が1万4,000円値上がりして28万8,800円、「16インチ」が1万円値上がりして34万8,800円となりました。
このときの為替相場は1ドル127.99円と、前回値上げの際(1ドル130.77円)より少し円高になっています。そうであるにもかかわらず値上げしたというのは、前回のバージョン(2021年10月発表)が円安により途中で価格改定を余儀なくされたこと、円安がさらに進行する可能性が見込まれたことによるものと考えられます(その予測は的中しています)。
そして、今回の2023年10月の新バージョンはさらに値上がりしています。「14インチ(M3 Pro搭載)」が4万円値上がりして32万8,800円、「16インチ」が5万円値上がりして39万8,800円となりました。なお、従来より割安な価格帯(アメリカでは1,599ドル)の「14インチ(M3搭載)」は24万8,800円となっています。
しかし、これはひとえに円安が反映されたものといえます。
すなわち、前述のように、アメリカでは値上げを余儀なくされる要因が複数重なっているにもかかわらず、価格は据え置かれているのです。それを考慮すると、値上がりの要因はほぼ円安の影響だけということになります。したがって、Macbook Proは実は割安だとも考えることができます。
日本での「Macbook Pro」の値上がりの要因は「円安」…抑える方策は?
以上からわかるように、米アップル社は、Macbook Proの価格を据え置いています。しかし、日本では値上がりが続いており、その主因はここ数年の「円安ドル高」にあります。
昨今の記録的な円安の進行は、日米の「金利差」によるところが大きいといえます。日本では長らく「マイナス金利政策」が続いてきているのに対し、アメリカでは2022年3月以降、利上げを行ってきています。その結果、金利の低い円が売られ、金利の高いドルが買われているということです。
日米の政府がそれぞれ現在の金融政策を継続すれば、円安はさらに進行する可能性があります。アップル社が2023年1月に、Macbook Proを前回値上げした際(2021年6月)よりも円高の状況だったにもかかわらず、新バージョンを値上げしたのは、日米両国の金利差が拡大し、円安が進行するという可能性を織り込んでのものだったと考えられます。
内外の金利差が拡大する事態を受け、日銀は10月31日に「イールドカーブ・コントロール(YCC)の運用のさらなる柔軟化」を発表し、長期金利が「+1.0%」を超えることを容認する方針を示しました。7月に「+0.5%超」となることを容認したばかりですが、さらに金融政策の修正を行ったことになります。
しかし、それでもなお、アメリカの長期金利(10年債利回り)は5%近くに達しており、日本とは大きな差があります。
また、利上げを行うにしても、そのタイミングや程度によっては、社会経済にダメージを与える可能性があります。たとえば、住宅ローン等の長期資金を借りている人の返済計画・資金計画に支障が生じたり、企業の資金調達が困難になったりする可能性が考えられます。しかも、そもそも金融政策には限界があるとの指摘もあります。
昨今の物価高騰は、国民生活に深刻な影響を及ぼしています。しかし、その大きな要因の一つである円安の進行を止めることは、前述したように容易なことではありません。政府はきわめて困難な政策判断を迫られています。
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