老後資金「金融資産のリターン」を当てにしてはダメ
生徒:私は先日、長年勤めた会社を65歳で退職しました。老後資金が心配なので、退職金で投資信託を買って資産運用しようかと考えています。年間360万円はNISAでインデックス・ファンドを購入し、残りはファンドラップで運用しようと考えているのですが、どう思われますか?
先生:初年度に360万円をNISA口座で、インデックス・ファンドを買うのは正解です。しかし、ファンドラップは止めたほうがいいですよ。個人向け国債を買ったほうがいいでしょうね。
生徒:ファンドラップでお金を大きく増やしたいのですが…。国債ではお金は増えませんよね。ダメですか?
先生:お金を増やそうと考えるなら、金融資産のリターンに頼るべきではありません。老後生活の基本として考えるべきことは、資産運用で増やすことではなく、働くことですよ。それによって収入を増やすことができ、生活を豊かにすることもできるのです。
生徒:ですが、早く仕事を忘れてのんびりしたいのです…。
先生:長年の会社勤めでお疲れなのですね。「できることなら、なるべく早く仕事から離れたい」と思うのは当然ですし、理解できます。しかし、会社員時代の仕事と、会社を退職したあとの仕事いうのは、まったくの別モノですよ。だれにも命令されず自由に好きな仕事ができますから、楽しく働くことができます。仕事することが生きがいになって、幸せな毎日が待っていますよ。
「健康・お金・孤独」の不安をなくすため、老後も仕事を続けよう
生徒:仕事が楽しくなる、幸せな毎日になるって本当ですか?
先生:一般的に「老後の三大不安」と言われるものがあります。それは「健康」「お金」そして「孤独」です。このうち「健康」については説明するまでもありませんよね。
生徒:はい。人間にとっていちばん大事なものが健康ですから。
先生:「お金」は、老後の生活費に必要です。会社員や公務員だった人なら、毎月15万円から20万円の厚生年金を終身で受けとることができるので、最低限の日常生活に行き詰まることはないでしょう。
生徒:最低限の生活だけでなく、できれば、妻と海外旅行したり、孫に教育資金を出してやったりしたいです…。
先生:そして3番目の不安として「孤独」があります。実はこれがいちばん厄介なのです。健康やお金はだれもが意識していることですが、多くの人は現役時代に、会社を辞めたあとにどれほど大きな孤独感が襲いかかってくるか、イメージできないのですよ。
生徒:たしかに妻と2人だけの生活では寂しいですね。孤独になるのは避けたいです。
先生:それなら「働くこと」です。働くことにはメリットがいっぱいです。ハードでストレスのたまる働き方をしなければ、体力や知力を維持できますし、報酬を得ることで、ある程度の経済的不安も解消できます。そして、仕事することで人とつながり、「孤独」を回避できるのです。
生徒:仕事もいいですが、できれば旅行や趣味など遊ぶ時間もほしいです…。
先生:遊ぶためにもお金が必要ですよね。では、「遊ぶお金を稼ぐために働く」と考えてはどうでしょうか? 普通に生活していくための日常生活費だけなら、公的年金でカバーできるでしょう。しかし、海外旅行に行ったり、おいしいものを食べに出かけたり、自分が好きな車へと買い替えたり…ということなら、公的年金だけではむずかしいと思います。そのような「贅沢」や「遊び」のために働くのが、定年後の働き方としてベストでしょうね。
老後は夫婦2人、合計で月20万円ぐらい稼げればOK
生徒:65歳過ぎてから、果たしてどれくらい稼ぐことができるのでしょうか?
先生:定年後の仕事なので、それほど大きな収入は得られないかもしれません。ですが、生活のためでではなく、心身の健康や、遊ぶ費用を稼ぐために働くのですから、収入は少なくてもよいのではありませんか。たとえば、アルバイトで月10万円、年収120万円ぐらい稼ぐことは十分可能ですよ。奥様と2人で働くことができ、月に20万円、年収240万円ぐらいは稼げるでしょう。
生徒:年間120万円だとすれば、70歳まで5年間働いて600万円くらい稼ぐことはできそうですね。10年働くと1000万円超えそうですね。それなら気軽に楽しく働けそうです。
先生:老後資金の不安を解消するには、就労するのがいちばん手っ取り早いといえるでしょう。
生徒:なるほど…。
先生:実は、もっとお金は増やせるのですよ。公的年金の繰下げ受給の制度はご存知ですか? 年金を増やすことができるのです。
生徒:年金が増えるんですか?
先生:そうです。長く働くことの最大のメリットは、働いて稼ぐ収入ばかりでなく、年金の増額ができる点にあります。公的年金の支給開始年齢は65歳ですが、それを自主的に遅らせることができるのです。
生徒:年金はどれくらい増えるのでしょうか。
先生:65歳よりも遅く受け取り始めると、1ヵ月ごとに0.7%増えます。仮に70歳から受け取り始めると、増額幅は42%となり、それが一生涯続きます。
生徒:毎月の年金が4割も増えるのですか! それはいいですね。
先生:もちろん、年金の受給開始を遅らせるのであれば、そこまでの生活費が必要になります。そのための方法が「70歳まで働く」ということですね。とはいえ、働けなくなるリスクや、医療や介護といった不確定な出費も想定し、iDeCoやNISAで金融資産を準備するといいでしょう。
生徒:ありがとうございます。これから仕事を探しに行ってきます!
岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
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