(画像はイメージです/PIXTA)

定年退職したあとは、年金や投資の運用益だけでのんびり暮らしたいと思う人も多いでしょう。しかし、ゆとりある老後を送るには、70歳まで働くことがお勧めです。定年退職後、自分のペースで適度に働くことで、お金の不安の解消はもちろん、心身の健康、社会的なつながりも維持できるなど、大きなメリットが得られるのです。FP資格も持つ公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

老後資金「金融資産のリターン」を当てにしてはダメ

生徒:私は先日、長年勤めた会社を65歳で退職しました。老後資金が心配なので、退職金で投資信託を買って資産運用しようかと考えています。年間360万円はNISAでインデックス・ファンドを購入し、残りはファンドラップで運用しようと考えているのですが、どう思われますか?

 

先生:初年度に360万円をNISA口座で、インデックス・ファンドを買うのは正解です。しかし、ファンドラップは止めたほうがいいですよ。個人向け国債を買ったほうがいいでしょうね。

 

生徒:ファンドラップでお金を大きく増やしたいのですが…。国債ではお金は増えませんよね。ダメですか?

 

先生:お金を増やそうと考えるなら、金融資産のリターンに頼るべきではありません。老後生活の基本として考えるべきことは、資産運用で増やすことではなく、働くことですよ。それによって収入を増やすことができ、生活を豊かにすることもできるのです。

 

生徒:ですが、早く仕事を忘れてのんびりしたいのです…。

 

先生:長年の会社勤めでお疲れなのですね。「できることなら、なるべく早く仕事から離れたい」と思うのは当然ですし、理解できます。しかし、会社員時代の仕事と、会社を退職したあとの仕事いうのは、まったくの別モノですよ。だれにも命令されず自由に好きな仕事ができますから、楽しく働くことができます。仕事することが生きがいになって、幸せな毎日が待っていますよ。

「健康・お金・孤独」の不安をなくすため、老後も仕事を続けよう

生徒:仕事が楽しくなる、幸せな毎日になるって本当ですか?

 

先生:一般的に「老後の三大不安」と言われるものがあります。それは「健康」「お金」そして「孤独」です。このうち「健康」については説明するまでもありませんよね。

 

生徒:はい。人間にとっていちばん大事なものが健康ですから。

 

先生:「お金」は、老後の生活費に必要です。会社員や公務員だった人なら、毎月15万円から20万円の厚生年金を終身で受けとることができるので、最低限の日常生活に行き詰まることはないでしょう。

 

生徒:最低限の生活だけでなく、できれば、妻と海外旅行したり、孫に教育資金を出してやったりしたいです…。

 

先生:そして3番目の不安として「孤独」があります。実はこれがいちばん厄介なのです。健康やお金はだれもが意識していることですが、多くの人は現役時代に、会社を辞めたあとにどれほど大きな孤独感が襲いかかってくるか、イメージできないのですよ。

 

生徒:たしかに妻と2人だけの生活では寂しいですね。孤独になるのは避けたいです。

 

先生:それなら「働くこと」です。働くことにはメリットがいっぱいです。ハードでストレスのたまる働き方をしなければ、体力や知力を維持できますし、報酬を得ることで、ある程度の経済的不安も解消できます。そして、仕事することで人とつながり、「孤独」を回避できるのです。

 

生徒:仕事もいいですが、できれば旅行や趣味など遊ぶ時間もほしいです…。

 

先生:遊ぶためにもお金が必要ですよね。では、「遊ぶお金を稼ぐために働く」と考えてはどうでしょうか? 普通に生活していくための日常生活費だけなら、公的年金でカバーできるでしょう。しかし、海外旅行に行ったり、おいしいものを食べに出かけたり、自分が好きな車へと買い替えたり…ということなら、公的年金だけではむずかしいと思います。そのような「贅沢」や「遊び」のために働くのが、定年後の働き方としてベストでしょうね。

老後は夫婦2人、合計で月20万円ぐらい稼げればOK

生徒:65歳過ぎてから、果たしてどれくらい稼ぐことができるのでしょうか?

 

先生:定年後の仕事なので、それほど大きな収入は得られないかもしれません。ですが、生活のためでではなく、心身の健康や、遊ぶ費用を稼ぐために働くのですから、収入は少なくてもよいのではありませんか。たとえば、アルバイトで月10万円、年収120万円ぐらい稼ぐことは十分可能ですよ。奥様と2人で働くことができ、月に20万円、年収240万円ぐらいは稼げるでしょう。

 

生徒:年間120万円だとすれば、70歳まで5年間働いて600万円くらい稼ぐことはできそうですね。10年働くと1000万円超えそうですね。それなら気軽に楽しく働けそうです。

 

先生:老後資金の不安を解消するには、就労するのがいちばん手っ取り早いといえるでしょう。

 

生徒:なるほど…。

 

先生:実は、もっとお金は増やせるのですよ。公的年金の繰下げ受給の制度はご存知ですか? 年金を増やすことができるのです。

 

生徒:年金が増えるんですか?

 

先生:そうです。長く働くことの最大のメリットは、働いて稼ぐ収入ばかりでなく、年金の増額ができる点にあります。公的年金の支給開始年齢は65歳ですが、それを自主的に遅らせることができるのです。

 

生徒:年金はどれくらい増えるのでしょうか。

 

先生:65歳よりも遅く受け取り始めると、1ヵ月ごとに0.7%増えます。仮に70歳から受け取り始めると、増額幅は42%となり、それが一生涯続きます。

 

生徒:毎月の年金が4割も増えるのですか! それはいいですね。

 

先生:もちろん、年金の受給開始を遅らせるのであれば、そこまでの生活費が必要になります。そのための方法が「70歳まで働く」ということですね。とはいえ、働けなくなるリスクや、医療や介護といった不確定な出費も想定し、iDeCoやNISAで金融資産を準備するといいでしょう。

 

生徒:ありがとうございます。これから仕事を探しに行ってきます!

 

 

岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

 

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