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【インドネシア経済】「インドネシアの今後の景気動向は?」
→積極的なインフラ投資に加え、海外からの直接投資拡大により長期的に堅調な経済成長が続く。
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製造業センチメントは好調
●米国、中国といった経済大国では製造業の在庫調整を背景にセンチメント低迷(50割れ)傾向が2022年10-12月期から続いています。こうした状況下においてもインドネシアの製造業・購買担当者景気指数(PMI)は好調(50超え傾向)が続いています。インドネシアでは、旺盛なインフラ投資を背景に需要が拡大しており、その結果、インドネシア独自のサイクルで製造業センチメントが好調を維持していると考えられます。
インフラ投資は好調を維持する見込み
●インドネシアでは首都機能をジャワ島のジャカルタからカリマンタン島*東部のヌサンタラに2024年から徐々に移し、2045年に移転が完了するという巨大なプロジェクトが始まっています。政府は2022年12月30日を以って、コロナ禍に起因する行動制限を撤廃したため、経済活動が正常化に戻った時期は2023年1-3月と判断できます。ジャワ島では、地盤沈下、交通渋滞、貧富格差拡大などの問題が起きたため、ジョコ大統領は首都移転を決定し、新首都では環境問題にも政府は一段と配慮するとみられます。
*カリマンタン島はジャワ島の北東部に位置し、ジャカルタからヌサンタラは約2000km離れている。
●インドネシア政府の予算を見ると、2023年の予算案ではインフラ投資の対2022年実績伸び率は+5.2%で組まれましたが、政府の着地予想では+7.2%へ上振れる見込みです。2024年の予算案ではインフラ投資は2023年着地予想に対して+5.8%の見込みで、好調を維持すると見られます。
厳しい財政規律でソブリン格付けにはプラス
●ジョコ政権のムルヤニ財務相は財政規律に強くこだわり、コロナ禍の特殊期間を除くと財政赤字のGDP比を3%以内に抑制する国家財政法の枠組みに2023年に戻しました。2024年の予算案では国家財政法に基づき財政赤字のGDP比を2.3%に抑制する方針を示しており、財政規律の方針は揺らいでいません。ソブリン格付けはMoody’sがBaa2安定的、S&PがBBB安定的と、投資適格を維持していますが、強い財政規律の方針の下で格付けが更に改善する余地はあると思われます。ソブリン格付けの改善があれば、海外からルピア建て国債への投資を通じた資本流入が期待できるため、インドネシアルピアにも上昇余地があるといえます。
●一方、2024年2月14日には大統領選挙・総選挙の投票が行われる予定であり、すでに2期目のジョコ大統領は大統領選挙に出馬できません。新しい政権が財政拡張路線を採用する可能性がありますが、インドネシアでは財政規律がすでに国家財政法として法制化されているため、よほどの政局変化が起きない限り、財政規律の方針は維持される可能性が高そうです。
注目される改正オムニバス法による直接投資の流入ペース加速
●2020年11月2日にジョコ大統領が署名し、雇用の流動化を促す雇用創出オムニバス法(通称オムニバス法、オムニバスとは総括的という意味の英単語)が施行されました。オムニバス法は、既存の70以上の法律を総括的にひとまとめにすることで、雇用者による従業員の管理を簡潔にし、外資からの投資を促すことが期待できる制度です。
●2020年10月15日、オムニバス法に対する違憲審査請求が憲法裁判所に提出されました。2021年11月25日、憲法裁判所は法律の制定過程に不備があったという違憲判決を下しましたが、法律の内容が違憲か否かには踏み込みませんでした。ジョコ政権は2022年12月30日に、オムニバス法を改正する代行政令(Perppu No2 of 2022)を制定し、国会は2023年3月31日に同政令を可決し(UU No6of 2023)、オムニバス法は改正されました。
●オムニバス法は経済発展にとって重要であることは政財界で認識されているため、新政権においても引き続き有効活用されることで、海外からの直接投資の流入ペースが加速することが期待されます。特に、コロナ禍による活動制限がすでに撤廃されたことに加え、デリスキング(リスク低減)を背景に外国企業が中国を直接投資先として選択しづらくなっている状況では、代替先として若年層の人口が多いインドネシアは選択されやすい国であると思われます。
ニッケルを武器にEVの生産拠点を目指すインドネシア
●インドネシアは、豊富な天然資源を有する資源大国として知られています。石油・天然ガス・石炭といったエネルギー資源、ニッケル、ボーキサイト、銅、パーム油、天然ゴムといった豊富な天然資源に恵まれています。
●インドネシア政府は、ニッケル、ボーキサイト、銅などの鉱物資源の加工産業を強化し、資源輸出国からの脱却と経済発展を目指しています。特に、カギになるのはEV電池の主要材料となるニッケルです。世界最大の埋蔵国を武器に2020年から未加工鉱石の禁輸に踏み切り、中韓の電池メーカーなど外国からの投資を呼び込んできました。ジョコ政権はEVの東南アジアでの生産拠点をめざして、関連産業を発展させる戦略を取っており、今後の経済発展につながることが期待されます。
(2023年10月23日)
石井 康之
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフリサーチストラテジスト
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※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米中などの経済大国では低迷が続く「製造業PMI」、インドネシアは好調を維持…プロに聞く今後の景気動向【三井住友DSアセットマネジメント・チーフリサーチストラテジストが解説】』を参照)。