(画像はイメージです/PIXTA)

すさまじい勢いで発達するAI。私たちも、さまざまな場面でAIのサポートの恩恵にあずかっていますが、人間が持つ本質的な部分にまでは迫れないと、脳科学者の茂木健一郎氏は考えています。具体的に解説します。※本連載は、茂木 健一郎氏の書籍『運動脳の鍛え方』(リベラル新書)より一部を抜粋・再編集したものです。

茂木健一郎が「英語はスポーツと同じ」と考える理由

現在、英語の勉強を必死でやっているという人も多いのではないでしょうか。

 

ただ、一方では「いやいや、英語力なんてAIが発展すれば必要なくなるでしょ!」と考える人もいるかもしれませんね。たしかに昨今、目まぐるしく発達するAIの自動翻訳システムなどが、私たちの語学力をサポートしてくれる可能性は十分あるでしょう。ですが、それを差し引いても、英語を勉強することのメリットは、おそらく消えないだろうと私は考えています。

 

それはなぜか――。

 

私はここで、「英語はスポーツと同じ」という、新しい概念を提唱したいのです。

 

これがどのようなことかといえば、いくらAIが発達したとしても、知識やデータだけではスポーツを楽しむことはできません。やはり、身体を動かして脳や身体に負荷をかけて、汗をかいてこそスポーツを楽しむことができます。これと同じように、英語にしてもただ単に翻訳して相手のいっている言葉を理解するよりも、その会話にある「人間味」だったり、お互いの感情を表現し合うことに、英語を学ぶ喜びや感動を見出せると考えているからです。

 

私がよくたとえるのは、恋愛が苦手だからといって自分が好きな人に対してロボットが代理で愛の告白をしても、その恋愛は成就しないのと同じです。

 

また、ビジネスでの商談でさえ、お互いがしっかり目を見て話すほうが伝達力や説得力が増すのと同じです。単にAIを介して会話をするだけでは、やはり身体性が伴わないのです。

 

さらにいえば、英語の勉強における「聞く」「話す」「読む」「書く」という動作はいうまでもなく運動であり、身体性を向上させることができるからです。

 

それらの理由から、やはり英語を勉強するということのメリットは、おそらくなくなることはないというのが私の意見です(ただ、こうした私の考えを超えてくるようなAI技術が開発されるかもしれませんが……)。

 

私自身は長年英語の勉強をしてきましたが、最近では新しい動きが生まれているのです。それは、英語を使った英語圏の仕事が増えてきたことです。

 

先日も、アメリカの有名なベンチャーキャピタルが主催する会議で基調講演を依頼されたり、海外のポッドキャストのインタビューを受けたり、私があるツイートをしたことがきっかけで原稿依頼が来たりと、こうした英語圏の仕事が増えたことによって、ますます私の英語力が磨かれているなと実感しています。

 

というのも、日本は文化的な成熟度が増し、海外のメディアは日本固有の文化やアニメ・マンガといった、世界に通用するエンターテインメントに関心を持つようになっています。それによって、海外からのインタビューでも日本のことをいかに英語で説明するかが重要になってきています。私にとって、こうした新たな英語への取り組みが、私の身体性を強化してくれているのです。

 

もちろん、皆さんは海外のメディアにインタビューを受けるという機会はそうはないと思いますが、英語で身体性を向上させたいというときに、身近でおすすめなのが映画鑑賞ではないでしょうか。

 

よく、「日本語の字幕が付いていると日本語を読んでしまうので、英語の勉強にならないのでは?」という人がいますが、日本語字幕はいわば、自転車に乗り始めたときの補助輪のようなもの。慣れてくると、次第に日本語字幕を読まずに、英語を聞くだけで理解することができるようになる。これもまた、人間の身体性がなせる業なのです。

 

 

茂木 健一郎
理学博士/脳科学者

 

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※本連載は、茂木 健一郎氏の書籍『運動脳の鍛え方』(リベラル新書)より一部を抜粋・再編集したものです。

運動脳の鍛え方

運動脳の鍛え方

茂木 健一郎

リベラル社

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