日本人の“給与”はなぜ上がらないのか…実質賃金上昇に不可欠な「生産性」を押さえつける〈重石〉の正体【エコノミストが解説】

日本人の“給与”はなぜ上がらないのか…実質賃金上昇に不可欠な「生産性」を押さえつける〈重石〉の正体【エコノミストが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

多くのサラリーマンが賃上げを願っていますが、仮にすべての労働者が賃上げされると、物価も上昇し、「実質賃金」は伸び悩むことになります。経済学で「合成の誤謬」と呼ぶこのパラドックスを打開するカギは、どこにあるのでしょうか。本記事では、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏による著書『インフレ課税と闘う!』(集英社)から一部を抜粋し、日本の「実質賃金」が上がらない理由について考えます。

無意味なルールを盾に仕事の効率を下げる“ブルシット・ジョブ”

問題は、コロナ禍の2020~2022年に再び他国との差がついたのではないかという点である。コロナ禍で日本企業は相対的に出遅れてしまった可能性がある。グラフでも日本は2020年の生産性は一段低くなってしまった。

 

コロナ禍では、世界中でデジタル化を梃子(てこ)にして、企業の生産性を飛躍的に高めようということが叫ばれた。DX(ディーエックス)化である。そのためには、仕事のプロセス自体を見直して、成果を追求することがDX化の肝(きも)である。

 

しかし、そうした「絵に描いたようなDX」は進まなかった。

 

DXとは革命的転換を指すが、組織のあり方を変えようとは思わずに、道具であるデジタル機器だけを新しいものに取り替えても、何か新しい付加価値は生まれない。

 

テクノロジーの性能を前提にして組織を変革することが本筋だ。

 

そうでなければ、余計な作業が増え続けて、デジタル化は生産性を高めない。

 

最近、日本企業の生産性が高まらないのは、過去に排出された余計な作業=ブルシット・ジョブを処理できないからだという意見が多く見られる。

 

日本の生産性は、順位こそ低いが、伸び率だけで見ると、コロナ前(2012~2019年)は順調に伸びていた。伸び率は低くないのに、水準が低い理由は、日本の生産性の足を引っ張っている何らかのファクターが重石(おもし)のようにあるからではないか。

 

その正体の一つが企業内に巣くっているブルシットだろう。ブルシットとは、品のないスラングで、「くそどうでもいいもの」を指す。「いまいましい」という感じだろうか。利益とは無関係に、無意味なルールを盾に仕事の効率を下げる行為だ。

 

過去の個人的な体験でも、他人の仕事に割り込んできて、無意味な手続きを押しつけることしかしない人がいる。わかっていながら誰もそれを制止できないこともある。

 

だから、経営者はよほど鋭く監視の目を光らせておかないといけない。会社の中には、ブルシット・ジョブを量産する人が隠れている。上から眺めて見ても、面従腹背の人は見分けにくい。

 

さらに、日本の組織の課題は、そうした体質をデジタル化と同時に滅菌することだ。日本企業にたまった長年の澱(おり)のようなものを一掃する。口だけではなく、皆が勇気を出して、非効率なことにNOをいうことが絶対に必要だ。

 

筆者の知っているある辣腕(らつわん)の経営者は、口癖のように「あんたたちは本気で稼ぐ気があるんか?」と言っていた。この問い掛けは、ブルシット・ジョブを殺菌する魔法の言葉になるだろう。

 

インフレ課税と闘う!

インフレ課税と闘う!

熊野 英生

集英社

コロナ禍やウクライナ戦争を経て、世界経済の循環は滞り、エネルギー価格などが高騰した結果、世界中でインフレが日常化している。これからは、「物価は上昇するもの」というインフレ前提で、家計をやりくりし、財産も守ってい…

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