無意味なルールを盾に仕事の効率を下げる“ブルシット・ジョブ”
問題は、コロナ禍の2020~2022年に再び他国との差がついたのではないかという点である。コロナ禍で日本企業は相対的に出遅れてしまった可能性がある。グラフでも日本は2020年の生産性は一段低くなってしまった。
コロナ禍では、世界中でデジタル化を梃子(てこ)にして、企業の生産性を飛躍的に高めようということが叫ばれた。DX(ディーエックス)化である。そのためには、仕事のプロセス自体を見直して、成果を追求することがDX化の肝(きも)である。
しかし、そうした「絵に描いたようなDX」は進まなかった。
DXとは革命的転換を指すが、組織のあり方を変えようとは思わずに、道具であるデジタル機器だけを新しいものに取り替えても、何か新しい付加価値は生まれない。
テクノロジーの性能を前提にして組織を変革することが本筋だ。
そうでなければ、余計な作業が増え続けて、デジタル化は生産性を高めない。
最近、日本企業の生産性が高まらないのは、過去に排出された余計な作業=ブルシット・ジョブを処理できないからだという意見が多く見られる。
日本の生産性は、順位こそ低いが、伸び率だけで見ると、コロナ前(2012~2019年)は順調に伸びていた。伸び率は低くないのに、水準が低い理由は、日本の生産性の足を引っ張っている何らかのファクターが重石(おもし)のようにあるからではないか。
その正体の一つが企業内に巣くっているブルシットだろう。ブルシットとは、品のないスラングで、「くそどうでもいいもの」を指す。「いまいましい」という感じだろうか。利益とは無関係に、無意味なルールを盾に仕事の効率を下げる行為だ。
過去の個人的な体験でも、他人の仕事に割り込んできて、無意味な手続きを押しつけることしかしない人がいる。わかっていながら誰もそれを制止できないこともある。
だから、経営者はよほど鋭く監視の目を光らせておかないといけない。会社の中には、ブルシット・ジョブを量産する人が隠れている。上から眺めて見ても、面従腹背の人は見分けにくい。
さらに、日本の組織の課題は、そうした体質をデジタル化と同時に滅菌することだ。日本企業にたまった長年の澱(おり)のようなものを一掃する。口だけではなく、皆が勇気を出して、非効率なことにNOをいうことが絶対に必要だ。
筆者の知っているある辣腕(らつわん)の経営者は、口癖のように「あんたたちは本気で稼ぐ気があるんか?」と言っていた。この問い掛けは、ブルシット・ジョブを殺菌する魔法の言葉になるだろう。