国民の豊かさをじわじわと奪うインフレ+低金利政策
日銀総裁が黒田氏から植田氏に交代したことで、長く続いた超低金利が是正されていくという期待感はある。しかし、最も身近な預貯金金利は当分の間、上がらないだろう。
そして、仮に「マイナス金利解除」ということで、マイナス0.1%の短期金利をプラスに持っていく場合であっても、その後しばらくは、政策金利水準は0.1%程度に据え置かれるだろう。
黒田総裁の前任の白川方明(まさあき)総裁は、短期金利を引き下げつつも、0.1%よりも低くすることには躊躇していた。あまりに低い短期金利は市場機能を麻痺(まひ)させて、金融機関の資金交換に有害であるという認識があったからだ。
金融機関に過剰なストレスをかけないという意味で、マイナス0.1%ではなくなるとしても、0.1%程度の超低金利は続きそうだ。
そうなると、政策金利に連動する預貯金金利も低いままであろう。物価上昇率を大きく下回るような預貯金金利は、この先もずっと継続する可能性が高いと予想される。
私たちがここ1~2年間で思い知らされたのは、インフレリスクに備えなくてはいけないということだ。日本で物価が上昇しないと高を括っているところに、海外から予想外のインフレが襲ってきた。こうしたリスクは、気がついたときには十分な対処ができない。
多くの人は、「今後2~3年も生活は苦しくなる」と思っている。恐ろしいのは、今の生活ではなく、さらに将来までの生活がもっと苦しくなることだ。老後の資金が目減りすると言えば、わかりやすい。
例えば、老後のために元本2,000万円を蓄えていたとしよう。この2,000万円の価値は、3%のインフレによって、単純計算で年間60万円も目減りする。理由は、預金金利が低すぎて、利息収入でインフレリスクをカバーできないからだ。
預金金利が0.001%だったとすると、預貯金2,000万円を預けたときの利息は年間200円である。紙の通帳を作ると手数料を取る銀行に預けていると、この200円は吹っ飛んで、マイナスになる。
インフレは、そのコストよりも遥かに巨大な損失を預金者にもたらす。
政府は、物価対策と称して、給付金を配り、ガソリン・灯油・電気代・ガス代に価格補助を行っている。これで何か十分に物価対策をした気になってもらっては困る。もっと深刻なのは、金融資産の価値が目減りする方である。
金融資産からの収入が増えていればよいが、必ずしもそうではない。
預金金利がほぼゼロ%である理由は、日銀が超低金利政策を継続することにある。いわば、金融資産の目減りに手を貸しているも同然だ。それでは、国民の豊かさがじわじわと失われてしまう。
インフレ+低金利政策は、「国民の窮乏化政策」なのである。
これに対して、国民が財産を自衛するには、価格変動リスク、為替変動リスクを覚悟して、資産運用の姿勢を変えることが対応策になる。
インフレではない時代には、「元本保証があれば安心」という常識が成り立っていたが、インフレ時代には元本保証だけでは十分ではない。