電気・ガス料金を引き下げる「荒技」
2022年の物価高騰で目立って上がったのは、電気代である。
2022年は1月から12月にかけて約20%も上がった。東京都の場合の平均モデルで調べると、1~9月まで燃料コストの高騰で上がり続け、とうとう10月には基準燃料価格の1.5倍という上限に達した(図表1-3-1)。
政府は、電気料金と都市ガス料金の値上がりを緩和しようとして、2022年9月に発表した経済対策では、2023年1月から9月にかけて補助金を支給するかたちで電力・ガス会社に20%の料金引き下げを打ち出した。
ところが、電力会社は2023年4月以降の料金改定で従来の約30%の値上げを相次いで申請した。全国10社の電力会社のうち5社が4月に値上げ申請をして、2社が6月に値上げ申請をする。
10社のうち残りの値上げをしない3社中の2社は、すでに原発を動かしている会社だ。さすがに岸田政権は、4月の申請の受け入れには「待った」をかけている。
電力会社の値上げ申請は、政府にとって、補助金で料金を引き下げる従来の価格維持政策の限界を感じさせるものだった。筆者は、一般会計・税収からの支出を使わずに、何とか電気代・ガス代を引き下げる方法はないものだろうかと考えてきた。
一つのアイデアは、外貨の含み益を利用することだ。
この外貨の含み益は、政府が保有する外為特別会計に蓄積されている資金から得られるものだ。日本政府の持ち分は、外貨準備高という。国が対外債務の支払いなどに充てるために準備している外貨保有分だ。
2022年8月末には1.29兆ドルに達する。正確な取得レートはわからないが、1992~2022年の為替介入資金の平均取得レートを計算すると、1ドル102.3円であった。仮に、その平均レートで、1ドル130円での含み益を計算すると、36兆円の含み益が存在すると試算される。
この外貨準備の増減は、為替介入によって動くことが知られている。
2001~2004年の介入額は48.5兆円、2010・2011年の介入額は12.9兆円(取得レート79.2円/ドル)であった。円高に歯止めをかけるためのドル買い・円売り介入をすると、政府の外貨保有は増える。
逆に、2022年9・10月のような円安に歯止めをかける介入では、実績値として9.19兆円のドルを売っている。そのときに得られた実現益は2.9兆円近くになると予想できる。この実現益は、税外収入ということで、補正予算の財源に回った模様である。外貨準備の含み益の大きさを感じさせた。
しかし、難点はドル売り介入をしなければ、実現益は使えないという点だ。そのため電気料金を引き下げるために用いることはできないように思われる。何とかこの含み益を利用して、電気代とガス代を安くする方法はないものだろうか。
例えば、いつも輸入をしてドルで支払いをしている電力会社に、必要な外貨を貸し付ける。輸入している原油・天然ガス・石炭など資源輸入に充てている資金に外貨準備のドルを使う。その方法は、外貨準備を国際協力銀行を通じて、電力会社に貸し付け、その返済資金は円で行うこととする。
その円の換算レートは、政府が外貨を取得したときのレート(簿価)とする。そうすると、差益が電力会社に還元されて、電気料金を引き下げることができる。
日本の1年間の鉱物性燃料の輸入額は33.5兆円である(2022年「貿易統計」)。これを外貨準備からの貸付で賄うだけで、輸入コストは22%引き下げられると試算できる。電気代も同様に引き下げることが可能である。
この方法であれば、ドルと円の取引には直接的な影響を与えない。強いて言えば、電力会社などが輸入のために行っている外貨調達が減少するので、ドル買い・円売りの圧力が弱まる。円安圧力が弱まるのだ。
ただし、この方法には欠点がある。企業や消費者がエネルギーを安く買うことは脱炭素化にも逆行するおそれがあるからだ。
その弊害をなくすためには、一定期間だけ電気・ガス、石油製品の値下げを行っている間に、EV化や脱炭素化を進めて、省エネ体制をつくり、脱炭素化促進策を同時に推進する必要がある。そのためには、政府は実現された為替差益の一部(プラス5~10%のプレミアム・レート分)を財源にして、脱炭素化を同時に進めるという手法を採るのが良い。
筆者は、エネルギー価格の引き下げを期限付きで行い、その期限のうちに別途、脱炭素化を促進することが中長期的な国家戦略として適切と考える。