Aさんの目の色が変わった「3つ目のプラン」
筆者はAさんからこれまでのこととこれからの生活への想いを聞き、次の3つの案を提示。そして、それぞれの案について実現した場合どれくらいお金がかかるのか、試算することにしました。
1.定年後にマイホームを購入する
2.マイホームを購入したうえで、Aさんは単身赴任する
3.起業する
1.定年後にマイホームを購入する
43歳のAさんは、定年まであと20年ほどあります。このままずっと宿舎で生活すれば、住居費が軽減できる分貯蓄も増えるでしょう。
その資金で定年後にマイホームを購入すれば、5,000万円くらいであれば老後の生活は心配ありません。しかし、これから20年以上宿舎暮らしが続くとなると、妻子の同意は難しそうです。
2.マイホームを購入したうえで、Aさんは単身赴任する
これまでは転勤のたびに家族一緒に引っ越してきましたが、「家族のためにマイホームを購入し、Aさんは転勤の場合単身赴任」というライフスタイルに変更するという案です。
この場合、マイホームを購入する地域と単身赴任に係る経費しだいで購入できる住宅価格も変わってきます。ただ、妻子は都内に住みたいそうです。都内に住宅を購入するには、現在専業主婦の奥様の収入も必要になるでしょう。
1と2の2案は、老後の生活を含めて試算していますが、Aさんが定年までいまの職場で勤めることが前提です。しかし次はすぐにも退職する案です。
3.起業する
筆者がこの案を提示したとき、それまで寡黙な印象を受けていたAさんの目の色が変わりました。そして、次のように言ったのです。
「入省後転勤もありながらここまで働き続けて、専門的な知識はひととおり身についたと思ってるんです。Bの話を受けて考えが変わり、俺もここで一区切りをつけて、現役後半戦は自分を試してみたいと思っています」
実際に起業するとなると、たとえばその数年後※にマイホームを購入して住宅ローンを返済する計画を立てたとしても、筆者の試算結果では事業経費や賃貸住宅の家賃などで、家計支出は現在の5~6倍になります。したがって、妻のパート収入などで家計を補い、支出を引き締めることも必要になってくるでしょう。
※ 通常、住宅ローンの審査で個人事業主は過去3年分の所得が査定されるため。
また、これまでの貯蓄や退職金は、子どもの大学進学費用や老後の生活費のために手を付けないようにすべきです。さらに、A夫妻の貯蓄は銀行の定期預金のみでしたので、今後は「NISA(少額投資非課税制度)」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」を利用して、資産形成を行うのもいいでしょう。
筆者は、「Aさんのお気持ちはわかりました。しかし、もしこの案を実行するなら、必ず奥様の同意を得るようにしてください」と伝えました。
数ヵ月後…Aさんの奮起に驚いたBさん
数ヵ月後、Aさんは惜しまれながらも退職。都内に住居兼事務所を借り、起業しました。どうやら、ご家族の同意を得られたようです。
「俺、起業したよ」と連絡を受けたBさんは、「あのAが、初めて思い切ったことをした!」と驚いていたそうです。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員
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