(※画像はイメージです/PIXTA)

いまの時代、定年退職して退職金を受け取っても、安心してリタイア生活へシフトできるわけではない。いつまで続くかわからない老後生活に備え、少しでも資産を蓄えておきたいと考えるのが一般的だといえる。しかし、いくらお金を増やしたくても、勧められるままいきなり大金を投資商品に注ぎ込むのは危険だ。ここでは、毎月分配型の投資信託の注意点について見ていこう。

サラリーマンの退職金、多くは「堅実」に使われているが…

サラリーマンの多くは60歳頃に定年退職を迎え、勤務していた企業から「退職金」を受け取ることになる。中央労働委員会『令和3年賃金事情等総合調査(確報)』によると、「退職金がある(退職一時金制度がある)企業」は89.7%。約9割のサラリーマンは定年退職時に、以下のような形で退職金を受け取ることになる。おそらく、多くの人がイメージする「退職金」は①だろう。

 

①退職一時金制度

従業員の退職時に一括で退職金を支給する

 

②確定給付企業年金制度

従業員の退職後、一定期間に渡って退職金(年金)を支給する

 

③企業型確定拠出年金制度

企業が積み立てた掛金を従業員が年金資金として運用する


④中小企業退職金共済

従業員が退職後、積み立てた退職金が共済機構から支払われる

 

退職金の額だが、一般社団法人日本経済団体連合会『2021年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果』によると、大学卒・総合職・60歳定年で2,440.1万円、高卒・総合職・60歳定年で2,120.9万円という結果が出ている。一方、東京都産業労働局『中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)』によると大卒の定年退職で1,091.8万円となっている。大企業は2,000万円、中小企業は1,000万円というのが、ひとつの目安になりそうだ。

 

そんな虎の子の退職金の使い道について、一般社団法人 投資信託協会の『60歳代以上の投資信託等に関するアンケート調査(2021年(令和3年))』によると、最も多いのが「預貯金」の59.3%。2番目以降、「日常生活費への充当」(25.6%)、「旅行等の趣味」(21.7%)、「住宅ローンの返済」(20.8%)と続く。

 

だが、5番目として「資産運用のための金融商品の購入」がランクインしているという点に注目だ。同調査によると、「初めて投資した年齢」として「60代」が17.8%。老後資産の形成のために退職金を増やそうと、定年退職後に投資デビューする人が増えているということだろう。

「毎月分配型の投資信託」のワナ

だが、定年退職後の投資デビューがうまくいくケースばかりとは限らない。大手企業を60歳で定年退職した伊藤さん(仮名)に話を聞いた。

 

伊藤さんは現在63歳。いまも同じ企業に嘱託社員の立場で勤務している。現役時代は部長という肩書で、たくさんの部下たちを束ねていたという。あと2年、65歳までは嘱託社員を継続する予定だ。

 

「現役時代はとにかく多忙で、仕事一筋でした。最近は自分で資産運用をする人も増えているそうですが、私自身はさっぱり…。郊外に自宅がありますが、それ以外の資産はすべて現預金でした」

 

嘱託社員となって給与額が大幅に減ったことで、資産運用について考え始めたという。

 

「年金不安の報道もありましたし、老後資金をどうしようか考えていたら、退職金を受け取ったちょうどいいタイミングで、メインバンクから連絡がありまして。妻も〈相談に乗ってもらいましょうよ〉というので、一緒に話を聞きに行きました」

 

「銀行の担当の方は〈お勧めの商品があります。毎月分配金を受け取れる人気の投資信託です〉といって、熱心に資料を使いながら説明してくれました」

 

60歳になったばかりの伊藤さんが年金受給できるのは5年先。伊藤さんは、毎月の分配金を受け取れることに魅力を感じ、担当者が勧めてくれた商品を、退職金2,000万円で買うことにした。

「2,000万円の元本が、なぜ400万円近く減っているんだ!!」

それから1年半。伊藤さんのもとに銀行から「担当者変更のあいさつをさせてほしい」と電話がかかってきた。

 

数日後、訪ねてきた新しい担当者を自宅に通し、しばらく歓談していたが、資産状況の説明の段階で衝撃を受ける。

 

「2,000万円の元本が、なぜ400万円近く減っているんだ!!」

 

毎月同じ額の分配金を受け取っていた伊藤さんは、てっきり運用が順調なものとばかり思っていたのだが、実際はそうではなかった。

 

伊藤さんは激怒したが、いまさらどうしようもない。

 

投資信託の分配金には「普通分配金」と「元本払戻金(特別分配金ともいう)」の2種類がある。普通分配金は、投資信託が組み入れている株式等を運用して得られた運用益から支払われる分配金のこと。それに対して元本払戻金は、元本の一部を取り崩して支払う分配金だ。

 

そして、伊藤さんが購入した「毎月分配型」の投資信託は、運用がうまくいっているときは、普通分配金を出せるのだが、うまくいかないときは普通分配金が出せなくなり、元本を取り崩して分配金を出すタイプであり、うまくいかない状況が重なれば、純資産は目減りしてしまう。

 

投資信託の目論見書には必ず上記についての言及があるほか、販売担当者にも説明義務があることから、注意深く目を通す・話を聞くことができていれば「分配金=利益ではない」ことも理解できるはずなのだ。

 

だが、その点が抜け落ちると、喜んで受け取っていた分配金が実は「元本払戻金」で、数年後に大きく元本が毀損されていることに気づき、愕然とすることになる。

 

また、このタイプの商品の別の問題点として、分配金として毎月キャッシュが吐き出されることで純資産が減り、投資効率が下がることも覚えておくべきだといえる。つまり「複利効果」が得られにくくなるのだ。

人任せの投資は厳禁…自己責任で商品の選択を!

投資信託の購入・運用にはさまざまなコストがかかる。一例だが、ある大手金融機関が販売している「毎月決算型」投資信託の費用・税金の項目には、購入時手数料3.0%(税抜)、信託報酬1.52%(税抜)と記載されているものがある。そのうえ、さらに収益から支払われる「普通分配金」に20.315%の所得税・地方税が課税されることになる。

 

もし仮に、上記の商品を2,000万円分購入したら、買付手数料だけで60万円ものコストがかかってしまう。

 

これらの条件を包括的に見たうえで、投資家は自己責任で「投資する・しない」を判断しなければならないのである。

 

とはいえ、毎月分配型の投資信託が悪いわけではない。年齢を重ね、生活資金として取り崩すステージにある人は適した商品だといえる。上記の伊藤さんの場合は、これから長い老後生活が待っていることから、この商品は向いていなかったのだといえる。

 

資産形成は、人任せでは失敗のリスクが大きい。自身の目的を明確にしたうえで、それに適した商品を自分の責任で選ぶことが必要だ。

 

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