(※写真はイメージです/PIXTA)

年金も預貯金も十分で、夫婦ともに健康な70代。一見なんの心配もなさそうですが、「老後破産リスク」は思わぬところに潜んでいるものです。今回、牧野FP事務所の牧野寿和CFPが実際に体験した事例を交えて解説します。

ワガママ息子の「言い分」

翌日筆者にAさんの息子から連絡があり、Webでお話を伺うことにしました。

 

息子は、諸費用を含めて約5,500万円の住宅を購入する予定です。

 

購入費のうち自分で100万円の手付金は準備して、今度不動産業者と売買契約書を交わすときに支払い、また頭金1,000万円はAさんに援助してもらい、住宅を引き渡してもらうときに支払う。そして残りの4,400万円は借入れ住宅ローンで30年間で返済する計画です。

 

住宅ローンの事前審査はすでに通っており、不動産業者と売買契約書を交わしたら、本審査を申込むそうです。

 

しかし息子は、Aさんが1,000万円援助してくれなければ不動産会社に支払うお金がないと焦っていました。

 

なお、息子が不動産会社の担当者に「両親だけ実家においておけない」と話したら、購入する家の近くの老人ホームを紹介されたため両親に話したそうですが、今はそれどころではないようです。

 

親の援助を受けても破産?…息子が思い描いていた“ずさんすぎる”計画

その2日後A夫妻が筆者の事務所に、息子にもWebで同席してもらいました。

 

息子一家の家計収支について、現在の息子の給与は年収650万円。今後の給与は息子の言うように65歳まで毎年1万円(0.2%)ずつ上昇するとして、65歳で退職金1,000万円を受け取る。妻は年収180万円で60歳まで働き、家計支出は現状を維持。この条件で、住宅ローンを30年で返済するシミュレーションをすることに。その結果は次の通りです。

 

[図表1]息子の家計収支シミュレーションの結果 筆者が作成
[図表1]息子の家計収支シミュレーションの結果
筆者が作成

 

親子ともに決断を即す

一方、A夫妻の家計についても筆者がシミュレーションしたところ、1,000万円息子に援助しても、夫婦ともに健康が維持できれば、また万が一どちらかが亡くなっても遺族厚生年金の受給で生活は持続でき、100歳になった時点でも900万円ほど貯蓄が残ります。

 

ただし、不動産会社の担当者が指摘するように、A夫妻の自宅は自家用車の運転ができないと生活できない地域です。万が一、介護や看護が必要な状態なった時の対策を、今から考えておくことも大切でしょう。

 

ちなみに、介護に必要な費用(公的介護保険サービスの自己負担費用も含む)は、平均で1人500万円以上必要です。

 

[図表3]生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」/2021(令和3)年度より筆者が作成
[図表3]生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」/2021(令和3)年度より筆者が作成

 

以上のことから、息子がAさんから1,000万円の援助を受けて住宅を購入したら、息子夫婦は家計を破産させないために、家計収入を増やし大幅に支出を削減させることが必須です。

 

また、Aさんも生前に1,000万円以上の援助をしたら家計が破産しかねません。

 

もっとも、3世代で住む家を購入して破産を免れることは可能です。

 

つまり、Aさんが自宅を売却して約3,400万円の売却益(実家近隣の売買相場から)を得て、そこから住宅購入の資金援助を、2024年から改正される相続時精算課税を利用して息子に生前贈与するのです。

※「生前の贈与額の累計額」が2,500万円までは特別控除として贈与税が非課税となり、その金額分は相続時の課税対象になる。また、2024年1月1日から税制改正され毎年110万円までの基礎控除を創設される。従ってAさんが住宅購入の資金援助と基礎控除内の生前贈与もするなら2024年以降に。詳細は生命保険文化センター『「相続時精算課税制度」とはどんな制度?』を参照。

 

あんなに呆れていたA夫妻だったが…結局「親子」だった

それからしばらくして筆者のところにA夫妻が訪ねてきて、まずこの先も相談に乗ってほしいと依頼されました。

 

そして夫婦は「1,000万円援助してほしいならする。老人ホームにも入居する。自宅の売却もする。同居してほしいなら喜んでする」と息子に連絡したそうです。

 

「正にまな板の鯉の心境です。愚息を育てた親の決断だと笑ってください」と夫婦で苦笑いしていました。

 

その後、A夫妻に息子から、「今回の家は断ったので、同居も含めて相談したいから、また東京に来てくれないかな」と連絡がありました。もちろん夫婦は息子のところへ飛んで行ったのでした。

 

 

牧野 寿和

牧野FP事務所合同会社

代表社員

 

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※プライバシー保護の観点から、登場人物の情報を一部変更しています。

〈参照〉
生命保険文化センター『「相続時精算課税制度」とはどんな制度?』(https://www.jili.or.jp/lifeplan/houseeconomy/828.html)

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