ツタンカーメンとアンケセナーメン(※PIXTAより)

「歴史はツッコミづらい人が作る、と思うのです」世界史ゆっくり解説系YouTuber・弥嶋よつば氏はそう語ります。ハプスブルグ家に「それ以上の近親婚は、しゃくれてしまいます」なんて誰が言えるでしょうか。離婚したいがために英国国教会を設立し、妻の罪をでっちあげて処刑したヘンリー8世。「どんだけ離婚したいねん」「自分が処刑されろ」と総ツッコミが入れば、現在の英国国教会は存在しなかったでしょう。歴史を作った数々のボケにツッコめる時がやって来ました。弥嶋よつば氏、平松健氏による書籍『明日誰かに話したくなる 王家の話』(KADOKAWA)より一部を抜粋し、紹介します。

アイ、ファラオ「ケペルケペルウラー」として即位するも…

もなか:「アイはファラオになった。彼には王妃がいたことがわかっている。」

 

みるく:「王妃おったんかい。」

 

もなか:「名前はテイ。普通に考えるとネフェルティティの母親ってことになるけど、継母もしくは乳母である可能性が高いという。テイの称号は『偉大なる王の妻の乳母』。この『王の妻』とはネフェルティティのことで、母ではなく乳母となっている。そして『偉大なる王の妻』の称号もあるから、アイの王妃であることもわかる。アイはこの時すでに60歳を超えていて当時としてはかなり高齢だし、次のファラオを探すための時間稼ぎ的な存在で、その治世はわずか3年ほど。特に大きな功績もない。」

 

みるく:「地味なファラオだったのね。」

 

イラスト:弥嶋よつば
イラスト:弥嶋よつば

 

紀元前1370年頃~。前回記事にも登場。クレオパトラ7世や、ラメセス2世の妻ネフェルタリと並ぶ「古代エジプト三大美女」の一人。(写真=Philip Pikart, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons)
[図表2]参考:ネフェルティティ 紀元前1370年頃~。前回記事にも登場。クレオパトラ7世や、ラメセス2世の妻ネフェルタリと並ぶ「古代エジプト三大美女」の一人。(写真=Philip Pikart, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons)

18王朝最後の王・ホルエムヘブ、「黒歴史は絶許」のスタンス

もなか:「息子がいなかったので一族で継承するのは諦め、軍の司令官をやっていたナクミトンという人物を後継者にするのだけど、ナクミトンはある人物に打倒されて王にはなれなかった。彼を打倒した人物が次のファラオとなる。」

 

みるく:「お、それは誰なの?」

 

もなか:「アイの娘ムトネジェムトの夫、ホルエムヘブだ(図表3)。」

 

生没年不明。黒歴史を許さないファラオ。(写真=Captmondo, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons)
[図表3]ホルエムヘブ 生没年不明。黒歴史を許さないファラオ。(写真=Captmondo, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons)

 

みるく:「ムトネジェムト…って、ネフェルティティちゃんの妹だったわね!」

 

もなか:「ホルエムヘブは王家に仕える軍人で、この頃は将軍だった。アイの娘の夫なので、いちおうツタンカーメン一族はギリギリ続いていることになる。」

 

みるく:「ギリギリもギリギリやな。」

 

もなか:「アイがファラオになる前、ヒッタイトの王子がエジプトに向かう途中に何者かに襲われたよね。襲った犯人がホルエムヘブではないかと言われる。」

 

みるく:「こいつか! 王家に仕える軍人だからありえるわね!」

 

もなか:「そして、ホルエムヘブは自身をアメンホテプ3世の後継者と名乗った。」

 

みるく:「え? 3世ってずいぶん前のファラオな気がするけど。」

 

もなか:「ホルエムヘブはアクエンアテンからアイまでのファラオの記録を抹消してしまうんだ。」

 

みるく:「なんでそんなことを!?」

 

もなか:「ホルエムヘブはアイによって一時的に失脚させられたことがあるんで、アイを恨んでいた可能性がある。後継者として指名されなかった恨みもあるかもしれない。それに、アクエンアテンの宗教改革はもはや黒歴史と化していた。」

 

みるく:「黒歴史を抹消しちゃったのね。記録用のフンコロガシ(=スカラベ)もいっぱい処分されたんだろうなぁ。」

 

もなか:「そんなホルエムヘブだけど、政界や軍隊などを改革して大きな成果をあげた名君で、人々からの支持は高かったよ。即位した時にはもう全然若くなかったはずだけど、統治期間は実に30年近くにも及ぶから長生きしたんだろう。」

 

イラスト:弥嶋よつば
イラスト:弥嶋よつば

 

もなか:「ムトネメジェムトとの間には子供がおらず、後継者にはホルエムヘブの右腕として活躍していた軍司令官のパ・ラムスを指名している。後のラムセス一世だ。なかば無理矢理ファラオを継承してきたツタンカーメン一族だけど、ホルエムヘブでついに終焉を迎えた。18王朝もここまでとなったよ。」

 

みるく:「ほんとにすごい家系だったわね…。」

次ページまとめ:ツタンカーメン家は古代エジプトの中でもかなりカオス

※本連載は、弥嶋よつば氏(著)、平松健氏(監修)の書籍『明日誰かに話したくなる 王家の話』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集したものです。

明日誰かに話したくなる 王家の話

明日誰かに話したくなる 王家の話

弥嶋 よつば(著)
平松 健(監修)

KADOKAWA

【人気YouTubeチャンネル「よつばch」、待望の書籍化】 権力を分散させないために、近親婚を繰り返したスペイン・ハプスブルク家。「王の長女は王以外の王族男性と関係が持てない」など謎のルールが多数存在する古代エジプト…

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