残業時間「上限越え」で逮捕者も!? 建設業界の経営者・就労者が恐れる〈2024年問題〉の実情【弁護士が解説】

残業時間「上限越え」で逮捕者も!? 建設業界の経営者・就労者が恐れる〈2024年問題〉の実情【弁護士が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

日本政府が推進する「働き方改革」により、残業時間の超過が厳しく罰せられることになりました。大企業は2019年4月1日から、中小企業は2020年4月1日から施行されましたが、建設業は2024年3月末日までこの改正法の施行が猶予されていました。しかし、いよいよ期限が迫り、厳しい対応が迫られています。弁護士法人山村法律事務所の山村暢彦氏が解説します。

建設業の2024年問題…「残業時間の上限規制遵守」に戦々恐々

建設業界ではいま、2024年4月1日に控える「2024年問題」の話題で持ちきりとなっています。

 

背景には、働き方改革の一環として残業時間の上限規制が制定され、その制裁として刑事罰まで付された法改正がなされたことがあります。大企業では2019年4月1日から、中小企業でも2020年4月1日から施行されたのですが、「建設業」については、2024年3月末日までこの改正法の施行が猶予されていました。

 

いよいよこの猶予期間の終了が迫り、2024年度からは建設業も残業時間の上限規制を遵守しなければなりません。これが「建設業の2024年問題」なのです。

建設業界だけ猶予されていたワケ

「他業種では施行されている法改正なのに、なぜ、建設業だけ猶予されていたのか?」という疑問の声があるかもしれません。

 

じつは、猶予されていた業種は主に「建設業」「運送業」「医師」の3つがあります。いずれも業務の特性や取引慣行上の課題がある業種とみなされ、時間外労働の上限について施行が先送りされていました。

 

実際、運送業のドライバーは長距離の貨物の移動を行う途中で、作業を切り上げて終わることはできないため、どうしても労働時間が長期化するという事情がありました。また、建設業についても、工期を守るために無理な長時間労働が行われるという慣行があったように思われます。

 

いずれにせよ、そのような猶予期間も2024年3月末には終わってしまい、残業時間の上限規制には刑事罰まで付されていますので、各企業がどのように対策していくのかと非常に話題になっているのです。

 

実際、現時点でも労基署の動きは活発になってきているようで、あからさまにこの規制に違反していると、いずれ逮捕者がでるような事態になりかねません。

 

残業時間の上限規制と労働基準法の条文

 

(時間外及び休日の労働)

 

第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。

 

⇒ 残業するには、「三六協定(さぶろくきょうてい)」が必要

 

第三十六条 第4項

 

前項の限度時間は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間及び一年について三百二十時間)とする。

 

第三十六条 第5項

 

⑤ 第一項の協定においては、第二項各号に掲げるもののほか、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第三項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間(第二項第四号に関して協定した時間を含め百時間未満の範囲内に限る。)並びに一年について労働時間を延長して労働させることができる時間(同号に関して協定した時間を含め七百二十時間を超えない範囲内に限る。)を定めることができる。この場合において、第一項の協定に、併せて第二項第二号の対象期間において労働時間を延長して労働させる時間が一箇月について四十五時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間)を超えることができる月数(一年について六箇月以内に限る。)を定めなければならない。

 

⇒ 原則として、残業時間の上限規制は、1年間に360時間が上限、特別条項を締結していれば、1年間に720時間が上限になる。

 

第十三章 罰則

 

第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

 

一 第三条、第四条、第七条、第十六条、第十七条、第十八条第一項、第十九条、第二十条、第二十二条第四項、第三十二条、第三十四条、第三十五条、第三十六条第六項、第三十七条、第三十九条(第七項を除く。)、第六十一条、第六十二条、第六十四条の三から第六十七条まで、第七十二条、第七十五条から第七十七条まで、第七十九条、第八十条、第九十四条第二項、第九十六条又は第百四条第二項の規定に違反した者

 

⇒ 残業時間の上限規制に違反すると「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金」と刑事責任を問われる。

求められる「労務管理の厳格化」

弊所の経験でも、建設業では、工事現場等外部での勤務形態になることが多く、労務管理自体が緩やかな業種と言わざるを得ないと思います。昔ながらの企業には「残業代も含めた給与」ということで、月額給与としては高めではありますが、残業代についてしっかりと算定・支払いをしていなかったという企業も多々ありました。

 

とくに「固定残業代」制度について誤った認識である会社も少なくありません。

 

「固定残業代」制度とは、あくまでも「残業代が恒常的に生じることから、先に一定金額を固定残業代として支払う」という取り決めに過ぎず、この制度を用いた場合でも、しっかりと「労働時間」を把握し、その上で「固定残業代」部分を超える残業が認められれば追加で残業代を支払わなければならないのです。

 

この点が見過ごされ、「固定残業代」制度を導入したものの、不十分な労務管理体制であるという企業は相当数ありました。このため、法律の現場では、建設業は残業代請求を含めた労使紛争に発展しやすい業種という印象があります。

 

2024年問題に備えて、そもそもの労働時間の管理および残業代の支払い自体ができていない企業も多いので、この点の労務管理体制はより徹底していかねばならないでしょう。

 

工事現場等外部での作業が多くなるとはいえ、近年は、勤怠管理アプリなども充実していることから、各社の労務体制に応じて必要なシステムや方法によって、労務管理体制を厳格化していくことが急務といえるでしょう。

 

今回の「2024年問題」ポイントは、以下のような上限規制としてまとめることができます。原則の範囲内でおさまれば特段問題ないのですが、これまでの建設業界の労働時間からすると、特別条項を利用して年720時間以内で対処しなければならない企業が多くなる見込みです。そして重要なのが、この特別条項を利用した上限規制を利用するには、この特別条項を上限規制内で利用したと明示するため、しっかりとした労務管理体制を整えていることが前提になります。

 

1. 原則

●月に45時間、年間360時間

 

2. 特別条項を利用した場合

●年間720時間以内

●月に100時間未満

●月45時間を超えることができるのは年6ヶ月まで

 

中小企業における労務管理問題は「上限規制」や「残業代支払い金額そのもの」というより、その前提となる「労務管理部分の制度が整っていないこと」「その体制を行うためのコストがかけられていないこと」が中核的な問題なのです。

 

残業代でも類似の問題があったのでご紹介します。

 

たとえば、残業代をきっちり支払うためには「分単位」の労働時間の管理が必要になります。そのため、毎日、従業員の労働時間を分単位で管理したうえで、給与支払い時には残業代の有無を算定し、給与と併せてしっかりと支払う必要があります。

 

また、「労働時間」の概念自体も誤った認識の企業が多くあります。たとえば、始業前のミーティングなどはその例です。8時半始業のため、8時20分から毎朝朝礼を行っているとすると、労働時間は8時半からではなく、8時20分からカウントするのが正しいのです。その他、従業員の移動時間や電話などの待機時間なども労働時間にカウントすべき場合が多く、このあたりの労働時間の把握がそもそも誤っている状態の企業もあります。

 

中小企業の相談を多く受けている立場から見ると、中小企業の会社が従業員を自社の利益のために酷使しているというより、労働法制それ全体が、上場企業等のコンプライアンスの徹底がなされている企業を前提に組まれているため、中小企業は労務管理自体にリソースを割くことができていないのではないかという印象です。

 

とはいえ、労務管理の徹底は、国の方針、法律としても規制がある以上、泣き言をいってはおれず、労務管理にもリソースを割いて、経営していく姿勢が必須なのだと思います。

今後は根本的な「業務効率化」が必須事項に

社労士・弁護士や会社との協力体制のもとでおこなわれる労務管理の徹底も、業務改善の側面がありますが、そもそも労働時間を長期化させないためには「業務の効率化」に正面から取り組むべきで、その点が何より重要です。

 

建設業の現場の仕事は、設計事務所による建物の「設計図書(≒組み立て説明書)」に基づき、現場の職人さんや大工さんたちがチームとなって建物を組み立てていく…というのがイメージです。

 

もっとも、職人さんといっても「水道関係」「電気関係」「床や壁の内装関係」「骨組みとなる建物自体」などなど、各専門性の異なる職人さんたちが連携して作業を行っていきます。

 

ここで、職人さん同士の連絡ミス・連係ミスや、会社の発注ミス・段取りミス等が起こると、簡単に工期が延びてしまいます。もっとも、注文者である施主との兼ね合いで工期を守らねばならず、無理をした残業、作業時間の長期化というのも度々起きてしまいます。また、現場監督の方は、現場の作業や段取りを管理しながら、現場作業を終えると夕方には事務所に戻って、業務報告などを作成せねばならず、恒常的に労働時間が長期化しやすいという性質ももっています。

 

業務の効率化というのは、企業ならどの業種でも永遠の課題だと思いますが、特に2024年問題に備えて、長時間労働が必要になる現場の作業方法等自体を改善していくという課題に直面しているのです。

 

 

山村 暢彦
弁護士法人 山村法律事務所
代表弁護士

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