「抵当権」はローンを完済しても“消えない”
多くの方は自宅等を購入する際、住宅ローンを組んで(=金融機関より借入を行い)購入すると思います。その際、金融機関は不動産を担保に取りますが、この権利を「抵当権」といいます。
その後不動産を売却する際は、原則は完全な所有権(=抵当権がない状態)にして引き渡すというのが一般的です。
しかし、抵当権というのは住宅ローンを完済したからといって自動的に消えるものではありません。さらに、金融機関が勝手に抹消手続きをしてくれるわけでもありません。
では、住宅ローンを完済したにもかかわらず抹消の手続きを放置した場合、どのような問題があるのでしょうか。事例を交えて確認していきましょう。
首都圏・駅チカの好立地に建つ3LDKのマンションに住む60代の夫婦。2人の子どもはどちらも社会人で、息子は1人暮らしをしており、長らく実家暮らしをしていた娘も最近になって結婚。家には夫婦2人だけという状態になりました。
「夫婦2人で3LDKは広すぎる」という話になった2人は、近所の築浅1LDKに引越すために自宅の売却を決意。
「立地はいいし、すぐに売れるだろう」と思っていた夫婦でしたが、不動産業者に行ったところ次のようなことを言われてしまいました。
「抵当権がついたままになっていますね。このままでは売れませんよ」
いったいどういうことなのでしょうか。
抹消手続きを放置すると「追加融資」が受けられない
先述のとおり、抵当権というのは住宅ローンを完済したからといって自動的に消えるわけではなく、金融機関が勝手に手続きをしてくれるものでもありません。抵当権を抹消するには、ご自身で手続きをするか、もしくは専門家(司法書士)にお金を払って手続きを行う必要があります。
この「抵当権の抹消手続き」は、主に下記のような流れで行います。
<抵当権抹消登記手続きの一般的な流れ>
①住宅ローンの返済が終わる
②債権者(金融機関等)へ抹消手続きしたい旨を連絡する
③抵当権の抹消を行うための書類が一式交付される
④③を添付して、抵当権を消すための手続きを行う
では、この手続きを放置するとどうなるのでしょうか。
住宅ローンを完済してしまえば抵当権は効力を失いますので、抹消手続きをしないからといって金融機関が不動産を差し押さえたり、新たに返済を要求してくることはありません。
ただ、売却する際には必ず抹消手続きをしなければならないため、司法書士である筆者はローン完済時に抹消手続きをしてしまうことをおすすめしています。
先ほどの事例であれば不動産業者が登場しているため、住宅ローンが完済されているかどうかや抵当権抹消手続きについてこの不動産業者から説明があるかとは思いますが、「個人間売買」の場合はご自身で手続きの調査をする必要があるため注意が必要です。
また、売却時だけではなく、自宅を担保にして新たに借入を行いたい場合、抵当権が抹消されていなければ担保として残っている価値(=担保余力)が低く評価され、追加融資を受けることができません。
登記簿から抵当権が抹消されていない以上は、他の金融機関が登記簿を見た際に担保が完済されているかどうか確認できないため、「余力がもうないよね」と融資が受けられないという弊害も発生しますので、ご注意ください。
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