アジア:マーケット動向
⇒【株式】概ね下落、【通貨】下落、【債券】概ね金利上昇。
【株式市場】
◆東南アジアの一部は上昇も、概ね下落
香港は7月の中国の主要経済指標が市場の事前予想を下回ったことに加え、不動産企業である碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)に対する信用不安が高まったことなどが嫌気された。中央銀行がインフレ見通しを上方修正したフィリピンや、輸出の低迷などを背景に政府が23年の経済成長率予想を引き下げた台湾も軟調だった。インドは消費者物価指数(CPI)の上昇率が市場の事前予想を上回ったことが嫌気され、オーストラリアも中国の不動産市場に対する懸念から主要鉱山銘柄などが軟調に推移。一方、新首相が選出され、総選挙後の政治リスクが薄らいだタイや、4-6月期のGDP成長率が堅調で、石炭価格上昇の恩恵が期待できるインドネシア、中央銀行による資金繰り支援策が発表されたベトナムは小幅に上昇した。
【通貨(対米ドル)】
◆下落
米国の金融引き締めが長期化するとの観測から米ドルは8月に上昇し、主なアジア通貨の対米ドルレートは下落した。株式市場から資本巻き戻しが起きた韓国ウォンが最も下落した。中国の不動産下振れ観測を受けて資源市況が下落するとの観測から豪ドルが次いで下落した。
【債券(国債)市場】
◆多くの国で金利上昇
アジア国債利回りは米金利とも連動し一部の国を除き上昇した。タイでは底堅い景気と根強いインフレ圧力の状況から7会合連続の利上げが実施され、長期金利上昇が継続した。一方で、中国では景気支援のための追加金融緩和実施が長期金利低下につながった。
<※参照:各国の株価指数の名称>
●中国:上海/深圳CSI300指数、●香港:ハンセン指数、●韓国:韓国総合株価指数、●台湾:台湾加権指数、●インドネシア:ジャカルタ総合指数、●マレーシア:クアラルンプール総合指数、●タイ:SET指数、●ベトナム:ベトナムVN指数、●シンガポール:シンガポールST指数、●フィリピン:フィリピン総合指数、●インド:SENSEX指数、●オーストラリア:ASX200指数
中国<金融市場動向>
⇒株価は持ち直し、人民元に下落リスク、金利はもみ合い推移。
【株式市場】
◆不動産市場における信用不安が高まる
7月の中国の主要経済指標が市場の事前予想を下回ったことに加え、不動産企業である碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)に対する信用不安が高まった。中国政府が、株式の取引にかかる証券取引印紙税の軽減や、株式市場の需給悪化要因となる新規株式公開の段階的抑制などの政策を打ち出したものの、市場心理を改善させるには力不足だった。投資戦略においては、引き続き構造的な成長分野の有力企業、政策のサポートを得ている企業、国際競争力のある企業、増配が期待できる企業に着目し、ツーリズム関連や環境関連、国産化が進展するソフトウェアや工場自動化部品、消費の高度化などを長期目線では有望視できそうだ。
【為替・債券(国債)市場】
◆人民元に下落リスク
短期的には米国の金融引き締め観測を背景に米ドルは堅調に推移しやすく、人民元は米ドルに対して下落しやすい。また、日銀の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の修正後、当面は日銀による追加引き締め措置は出ないとの観測が出ており、短期的には円に対しては人民元は安定しそうだ。
◆債券利回りはもみ合いながら推移する展開
中国経済の回復ペースは一段と鈍化し、景気支援のための追加金融緩和が行われたことで、中国国債利回りは低下した。目先は、政府による不動産部門に対する政策調整期待から一時的に利回りに上昇圧力がかかる局面が見込まれる。しかし、不動産部門の構造的な問題の解決に至らず、中国経済が懸念される状況に戻る可能性が高いと見込み、中国国債利回りは短期的に上昇した後、低下する展開を予想する。
中国<マクロ経済動向>
⇒循環的な景気モメンタムは低下。
◆サービスPMIが明確な低下傾向
製造業PMIは8月に市場予想を超えて49.7へ上昇したが、引き続き50割れであった。8月には地方政府が地方政府専項債の発行ペースを加速させインフラ投資の執行ペースが加速したことに加えて、河北省など北部地域の洪水被害からの復興需要が出てきたため、一時的に製造業PMIが上振れた。しかし、製造業者の59%以上が需要不足を指摘しており、製造業には底打ちの気配がない。サブインデックスの製品価格は50超えとなったが、資源市況の上昇を背景にした上流部門の石炭・石油部門が中心であり、中流部門、下流部門では結果的に投入コストの上昇に見舞われたと思われる。一方、需要不足を背景にサービス業PMIは低下傾向を辿り、非製造業PMIは市場予想を下回り、低下した。
◆低インフレ局面
7月の消費者物価上昇率は前年同月比▲0.3%と2021年2月以来のマイナス圏入りとなった。需要不足で需給ギャップが縮小してこない状況であるため、多少の振れがあるにせよ、低インフレが続くとみられる。低インフレ下では名目成長率が低めになるため、企業の売上高見通しは下振れしやすい。企業が従業員の賃金を削減しているため、家計の年収は下がりやすくなっており、消費意欲が低下するという悪循環に陥りやすい。
◆不動産センチメントは弱い
国家統計局が取りまとめている不動産センチメント指数は2022年1月以降、急速に悪化し、明確な改善に至っていない。7月も悪化した。不動産ディベロッパーが事実上デフォルト、経営破綻に直面していることから、住宅引き渡し問題は根本的に解決できないだろう。①若年層人口の減少傾向、②不動産税導入への警戒感、③住宅引き渡し問題を受けて、住宅価格は低下局面にある。家計の資産の大宗は住宅であるため、住宅価格の下落は負の資産効果を通じて消費の抑制要因となり、需要不足の主因となっている。
2023年9月のアジア・マーケット・マンスリー(後半)はコチラ>>
(2023年9月7日)
石井 康之
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフリサーチストラテジスト
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『減速する中国経済。不動産ディベロッパーが事実上デフォルト、経営破綻に直面しているが…今後の投資戦略は?「8月のアジアマーケット動向」を振り返る【三井住友DSアセットマネジメントが解説】』を参照)。