(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢化の進展で、介護問題に悩む人が増えている。介護する側・される側のいずれも大変だが、最近では介護サービスが充実しつつある。しかしその一方、家族間の連携がうまくいかず、介護の担い手に過剰な負荷がかかってしまうケースもあるようだ。

子どもと同居する高齢者世帯、「大きく減少」の一方で…

さいたま市在住の50代の佐藤さん(仮名)は、要介護3の姑を自宅で介護し、先日見送ったばかりだ。認知症の症状が進行していた姑に、最後はほぼ付きっ切りだったという。夫は会社員だが、介護には積極的でなく、なし崩し的に佐藤さんが介護のすべてを主導する形となったという。

 

もともとは、共働きの佐藤さん夫婦のほうが夫の両親に子育てのサポートを受けるため、子どもが小学校に上がるタイミングで、夫の実家そばに賃貸へ引っ越してきたのだという。だが半年後、元気だった舅が倒れて介護生活に。結局、姑は舅にかかりきりになり、子育てのサポートはほとんど受けられずじまいだった。

 

「舅が倒れたことで、計画が大きく狂ってしまいました」

 

小学生の子どもが転校を嫌がったため、佐藤さんは1時間以上かけて通勤することになった。子どもが小学生の間は、学童、学習塾、シッターの利用でなんとか乗り切った。佐藤さんも多忙な営業部門から、比較的残業が少なく休みやすい、事務作業がメインの部門へ移動したが、給料は大きく下がってしまった。

 

佐藤さんはつぶやく。

 

「人生、すべて計画通りにはいきませんし、移動させてくれた会社には感謝しています。ただ、夫は非協力的で、私より残業も少なく通勤時間も短いのに、子どもが病気をしても、仕事を中断して対応するのはすべて私で、納得できませんでしたが…」

 

その後、数年の闘病生活を経て舅は死去。子どもも中学生になり、手がかからなくなってホッとしたところ、今度は姑の様子に変化が現れた。

 

「義父の葬儀から半年後、夜に警察から連絡があったのです。駅前で義母がウロウロしているのを、若い会社員の方が保護してくれたと。慌てて警察に駆け付けて頭を下げ、義母に話を聞いたら、真顔で〈お父さんを迎えに行った〉というんです。〈今度は義母か〉と思い、血の気が引きました」

 

その一件から、佐藤さん家族は賃貸を出て同居することになった。

 

「仕事は絶対辞めないつもりでしたし、義母の年金収入は月16万円ほどあったので、夫に施設への入所を提案しましたが〈そんなかわいそうなことできるか〉と一蹴されてしましました。同居生活で私は心身ともに限界になってしまい、結局退職することになりました」

 

その後もたびたび夫に施設の入所を訴えた佐藤さんだったが「専業主婦がいるのに?」と、取り付く島もなかったという。

 

「本当は、私も定年まで勤務するつもりでしたし、通勤に便利な都内のマンションで暮らしたかった。悔いが残りますね…」

 

厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』によると、子と同居する高齢者は1,356万9,000人。そのうち、子夫婦と同居するのが303万8,000人、配偶者のいない子と同居するのが1,053万1,000人(出所:令和4年 国民生活基礎調査』表2)。子夫婦と同居する高齢者の割合は明らかに減少しているが、配偶者のいない子と同居する高齢者の割合は増加傾向にある。

 

「高齢者と子世代の同居」が減少している背景には、核家族化の進行や未婚率の上昇といった複合的な要因が考えられるが、一方で、現実には佐藤さんのようなケースも存在する。

 

◆子と同居する65歳以上の人の推移

 

〈1998年〉

1,037.4万人(50.3%)/ 644.3万人(31.2%)/ 393.1万人(19.1%)

 

〈2004年〉

1,157.1万人(45.5%)/ 599.5万人(23.6%)/ 557.6万人(21.9%)

 

〈2010年〉

1,257.7万人(42.2%)/ 520.3万人(17.5%)/ 737.4万人(24.8%)

 

〈2016年〉

1,357.0万人(38.4%)/ 403.4万人(11.4%)/ 953.6万人(27.0%)

 

〈2022年〉

1,384.2万人(36.2%)/ 361.9万人(9.5%)/ 1,022.3万人(26.8%)

 

出所:厚生労働省令和4年 国民生活基礎調査』表4より抜粋

※ 数値左より子と同居する高齢者の人数/子夫婦と同居する人数/配偶者のいない子と同居する人数。( )内は65歳以上の人全体に占める割合。

いまなお残る「義親の介護は嫁」という固定観念

国立社会保障・人口問題研究所が2022年に実施した『第7回 全国家庭動向調査』によると、「年をとった親は⼦ども夫婦と⼀緒に暮らすべきだ」への賛成割合は2008年調査では50.8%、2013年調査では44.6%、2018年調査では34.3%、そして2022年調査では26.5%と低下傾向が続き、2008年からの約15年間における低下幅は24.3ポイントである。

 

「年⽼いた親の介護は家族が担うべきだ」への賛成割合についても低下傾向にあり、2008年調査では63.3%、2013年調査では56.7%、2018年調査では45.2%、2022年調査では38.9%となっており、2008年からの低下幅は24.4ポイントである(出所:国立社会保障・人口問題研究所『第7回 全国家庭動向調査』84ページ)。

 

介護に対する考え方も変化している。


厚生労働省『2022年 国民生活基礎調査』では、要介護者と介護者との関係をみていくと「同居」は45.9%で前回2019年調査から8ポイントほど減少し、半数を下回った。続柄ごとも、

 

「配偶者」23.8%→22.9%

「子ども」20.7%→16.2%

「子の配偶者」7.5%→5.4%

 

と、いずれも減少傾向となっている。

 

「別居」の場合の続柄もみていくと、「別居の家族等」13.6%→11.8%、「事業者」12.1→15.7%となっている(出所:厚生労働省『2022年 国民生活基礎調査』図25)。

要介護者の急増で「お金があっても施設に入れない」ケースも

前出の厚生労働省の調査から介護時間が「ほぼ終日」となる同居の場合の介護者と要介護者についてみていくと、「夫を介護する妻」が最多で45.7%。「親を介護する子ども(女性)」が18.5%。「妻を介護する夫」が15.7%、「親を介護する子ども(男性)」が8.1%と続く。

 

なお、「義親を介護する妻」は、2016年は11.9%だった数値が2019年は7.3%と減少傾向にあったものの、2022年は8.1%と1ポイント増加しているが、「義親を介護する夫」の割合はわずか0.2%。義親の介護においては、圧倒的に「嫁」が介護にあたるケースが多いことがわかる(出所:厚生労働省『2022年 国民生活基礎調査』図29)。

 

コロナ禍を経て、やっと姑を見送った佐藤さんだったが、ここで再び家庭内が不穏な空気に包まれているという。

 

「夫から〈専業主婦を養う余裕はないぞ〉と詰められているんです」

 

「私も腹が立って〈だれのために仕事を辞めたと思ってるの?〉といい返したら〈自分が楽をするために選んだんじゃないか〉〈おふくろがいたから無職を許してやっただけ。1人だけラクするのは許さないからな〉と…」

 

「私だって管理職だったし、夫と同じくらい給料を稼いでいたのに。こんなことになるのなら、義母の認知症がわかったとき、いっそ息子を連れて離婚すればよかった…」

 

佐藤さんは唇をかむ。だが、介護の必要な家族を置いて家を出ることなど、当時はとてもできなかったのだろう。

 

一方でまた、介護サービスを利用できていたならと悔やむものの、需要に供給が追い付かず「介護サービスを受けられない」「介護施設に入れない」といった、いわゆる「介護難民」の問題も懸念されている。

 

今後の日本において、これらの問題はさらに深刻化するだろう。国家的な対策が急がれる。

 

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