(※写真はイメージです/PIXTA)

貧困に陥るパターンはいくつもあるが、社会的な懸念となっているものに「ニート」の問題があるだろう。だが、自宅に引きこもり、社会から断絶した彼らに就労を強制するだけでは、解決には結びつかない。実情をみていく。

自宅に半年以上引きこもる40〜64歳「全国に61万人以上」

コロナ前の日常が戻りつつあるいま、各所で人手不足の声が聞こえてくる。以前より政府は「誰もが時給1,000円」を掲げていたが、今年の10月からいよいよその布石として「全国加重平均1,000円」が実現する見通しだ。

 

就職氷河期世代に懸念される非正規の問題、低賃金の問題などはありつつも、いまの日本ではえり好みしなければ仕事は少なくないように思われるが、一方で働きたくても仕事に踏み出せない、根深い「ニート」の問題もある。

 

ニートとは、厳密には「15~34歳の男女のうち、主に通学や家事をしていない無業者」を指すが、総務省統計局が「いわゆる『ニート』に近い概念として若年無業者」と記しているように、無業者を指すことも多い。また「ニート」よりも上の世代の「35歳以上のニート状態」の人たちを「中年ニート」と呼ぶこともある。

 

2019年の内閣府の調査では「自宅に半年以上引きこもっている40〜64歳は、全国に61万人以上」とされ、こちらも大きな話題となった。

 

現状において中年ニートの多くは、親の年金で生活していると推察されている。厚生労働省によると、厚生年金受給者の平均年金額は14万円。持ち家であれば、高齢の親とニートの子ども1人程度なら、なんとか暮らしていくことができるのだろう。

 

ちなみに、40代後半のサラリーマンの平均給与は、月収(所定内給与額)で38.8万円、賞与も含めた年収は636.0万円。50代前半になると月収で41.0万円、年収で672.2万円、50代後半なら月収は41.6万円、年収は674万円とピークに達する。40代から50代後半、サラリーマン人生において、給与がピークへと向かう一方で、相当数が自宅に引きこもったまま、収入ゼロ円の人のニートをしている現状がある。

 

親が生存している限り年金は受け取れるが、親が亡くなったあとは大変だ。正真正銘「収入ゼロ」となれば、すぐに生活できなくなってしまう。子どもが40代後半なら、おそらく親は70代後半くらいだろう。平均寿命から考えると、ニートの彼らはあと10年ほどで人生の大きな転機を迎えることになる。

 

定期的に報道される「年金の不正受給」も、おそらくこのような状況下で起きているのではないか。

働けない当事者からは、寄り添うケアの要望も

厚生労働省のサイトに掲載されている、令和5年5月開催の第166回市町村職員を対象とするセミナー「ひきこもり支援の必要性と求められる実践」の資料によると、2022年の段階において、引きこもり状態にある人(15歳~64歳)の数は146万人で、およそ50人に1人の割合だという。

 

また、引きこもりとなる要因としては、「 本人の身体・生活習慣(生理的・身体的側面)」「 本人の心(精神的・心理的側面)」「 社会の環境(社会環境的側面)」という3つがあり、 ソーシャルワーク支援が有効だと考えられており、地域によるセーフティネットの構築などの対応が急がれている。

 

また、当事者や経験者から聞き取りした「こんな支援があったらいいな」という声として、下記のような意見が取り上げられている。

 

●問題解決よりも、まず無条件に話を聴いてくれる。見立て等で質問攻めにしない

話すのが苦手でも急かされない。無理に聞き出そうとしない(沈黙も大切にされる)

 

●一方的に勝手に決めずに、本人の意向(意思)を確認する姿勢があること

(たとえ応えられなかったとしても)最初に「どんな風に進めてほしいですか」や、「配慮してほしいところはありますか」などについて尋ねてもらえること

 

●就労ありき(ゴールありき)の支援ではなく、寄り道や、引き返したりができる

「失敗がとにかく怖い。だから一歩が踏み出せない。失敗して人に迷惑をかけないかどうかが不安。うまくいかなくてもいいもの、やり直しがきくもの、その日の体調で休んでも非難されない環境、自分を責め続けなくていい場があったらいい」

 

●矯正する(治す)ことが前提ではない支援

何かをしてくれるばかりの支援ではなく、互いに成長し合える関係性。やってみたいことにチャレンジできる場

 

●他人との比較ではない、気まずさを感じず、経験を積める場

 

<参考>ひきこもり新聞7月号、「ヒッキ―ボイス」より

 

出所:厚生労働省資料 「ひきこもり支援における居場所の設置と自治体間連携について」

 

ニートに対しては「甘え」といった厳しい見方もあるが、だからといって外野が批判を繰り返したところで、なにも建設的な結果は生まれないだろう。

 

彼らのサポートに役立つ制度の例として、たとえば「公共職業訓練(離職者訓練)」などがあるだろう。ハローワークの求職者なら、3ヵ月~2年ほどの訓練を受けられ、自動車整備や電気設備技術などを学べる。テキスト代等の実費負担はあるが、それ以外は無料で就職に必要なスキルなどを学べる。

 

また「求職者支援訓練」なら、ニートのほか、失業保険に加入できない求職者(受給終了者含む)を対象に、就職に必要な職業スキルや知識を学べる職業訓練を受けられる。こちらもテキスト代等は実費負担だが、ほかは無料だ。しかも月10万円の生活支援の給付金を受けられる(支給要件あり)。2021年度は全国で3万人強が受講している。

 

社会と関わりのない人たちをいきなり社会に放り出し、就労を強制するのは難しい。長いブランクがあるケースが多いことから、まずは必要な支援を行い、すぐに就職を目指すのではなく、職業訓練などからスタートするのも選択肢だ。

 

いずれにしろ、ニートの問題を解決するには、行政や地域による、根気強く手厚いサポートが求められるといえるだろう。

 

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