世界はさらなるインフレ時代へ
原油・コモディティのサイクルも株式市場、為替市場と同様、ほぼ10年前後で上昇期と下降期を繰り返している。原油もゴールドと同様に戦争、紛争、世界的な経済・金融危機などを背景にして上昇と下落の過程をたどってきている。
WTI原油相場が顕著に上昇過程に入ってきたのは、2001年9月の9.11後からだった。
ブッシュ政権による「テロとの戦い」宣言で軍産複合体がフル稼働に突入したあたりから、1バレル=20〜30ドルであった原油相場はメキメキと上昇を開始、アップトレンドとなった。
21世紀を迎えてからは、中国など世界の工場となった新興国の台頭もあって、世界的に原油需要が高まった。2000年から2008年にかけて、原油価格はそれ以前の5倍、6倍となる130ドル、140ドルへと暴騰した。
しかしながら、サブプライム問題に端を発し、世界同時金融危機を引き起こした2008年のリーマン・ショック以来、世界的に景気が後退し、製造業の中心であった中国経済の減速と不況から、原油の需給環境が悪化した。
原油価格は上下動する相場展開となるも、ダウントレンドとなった。相場悪化をもたらし
た極めつけはコロナによる世界的なパンデミックで、2020年3月には2002年2月の19.71ドルに迫る20ドル割れ寸前の20.37ドルまで下落した。
さらに4月20日には米ニューヨーク商業取引所で、原油価格の指標となる米国産WTI原油の先物価格(5月物)が1バレル=マイナス37.63ドルで取引を終えた。
原油価格がマイナスに陥ったのは史上初めてだったため、このニュースを記憶している読者も多いことだろう。世界経済が停滞し、エネルギー需要が急速に減退した。買い手のない原油で貯蔵タンクが満杯に近づいたためだった。
その一方で、コロナのパンデミックにより世界各国の主要都市がロックダウンに追い込ま
れたことから、全世界的にやむなく工場が休業となり、供給サイドに衝撃的な減少が見られた。
そこにコロナ禍対策で米国中心に巨額の財政出動がなされた。物がないなかでの現金ば
ら撒き政策で、物価はおのずと高騰し、インフレの芽が発生し波及していった。
世界的な政治の潮流である「カーボンオフ」を合言葉に、化石燃料を嫌気した結果、原油
の掘削企業に対する投資が過少になっていった。エネルギー供給が逼迫するヨーロッパに追い打ちをかけるがごとく、2020年5月からは原油相場は上昇を開始した。
そしてロシアVSウクライナの戦争が勃発したことを受けて、強力な軍産複合体を擁する米国の経済成長が見込まれることから、原油価格はあっという間に高騰し、上昇トレンドが再開された。
2022年には、最高値で1バレル=130ドルを付けた。ここしばらくは、供給不安が解消されたこともあって原油価格は下落し、2023年初頭は1バレル=70ドル台で推移している。
バフェットが石油株のエクスポージャーを思い切って拡大させているのは、世界はさらな
るインフレ時代となっていくと読んでいるからであろう。ウォーレン・バフェット自ら、石油ビジネスに関してコメントを出しているので、参考までに記しておこう。
バフェットはこんな談話を残している。
ただし、本書で私が解説してきた2024年の第4四半期を前後して史上最大かつ最後の
バブルがその臨界点を迎え、終焉に向かうことを彼が読んでいるのかどうかはわからない。
大きく入れ替えられた銀行株銘柄
もう一つ気になるのは、バフェットが金融株、銀行株銘柄を大きく入れ替えていることで
ある。
2022年の年次株主総会で、銀行株に関しては微調整とあるが、実際にはここ2年間、これまで大口で保有していたJPモルガン(JP Morgan)、ウェルズ・ファーゴ(WellsFargo)、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)の株を売却している。
対して2022年第1四半期にはバンク・オブ・アメリカ(Bank of America)株を大幅に買い増したほか、シティグループ(Citigroup)の持ち高も30億ドル(1ドル=140円換算で4200億円相当)近くになっている。
今回の株主総会に、JPモルガン・チェースのCEO、ジェイミー・ダイモンが駆けつけ
てきていることから、ふと感じたことが二つあった。
一つ目は、ジェイミー・ダイモンのこれまでの経歴に関係している。
もともとシティグループのトップであったのだが、左遷(内部闘争に敗れたためと当時業界内では噂されていた)の憂き目に遭ったのは90年代中頃のことだったと記憶するが、その後デトロイト銀行へと転身し頭取に就任。
デトロイト銀行はファースト・シカゴ銀行と合併、さらにバンク・ワン銀行と合併したために、そのトップとなった。さらにその後2004年にバンク・ワン銀行と合併したJPモルガン・チェースでCEOへと上り詰めたのだった。
いまや総資産、収益力、時価総額で世界屈指の規模を誇る。
バフェットは大口で保有していたJPモルガン・チェースの株を全部売却して、シティグ
ループの持ち株を新たに増やしている。ということは、ゆくゆくJPモルガン・チェースとシティグループが合併するのではないか。
これはあくまでも憶測に過ぎないが、その際にジェイミー・ダイモンにとっては臥薪嘗胆、CEOを奪還して古巣のトップとして返り咲くシナリオがあると考えれば、2022年6月末時点で110ドル前後だったJPモルガン株を売却して、50ドルを切っていたシティに乗り換えても妙味ありと読んだからかもしれない。
もう一つは、バフェットのポートフォリオを見ると現状、金融株のパーセンテージが大き
く、セグメントとしてかなり重要視していることは明白だ。
となると、2024年第4四半期に起こるであろうグレートリセットとなったときに確実視されるのが、銀行の倒産ドミノである。
1929年の大恐慌時には1万行にもおよぶ銀行が倒産に追い込まれた。当時は採算ベースにある銀行のほとんどが、財閥系の銀行に吸収されていった。商業銀行の雄であるバンク・オブ・アメリカとシティグループが今回の立役者となり、他の金融機関は前回のサブプライム危機で見たようなスケープゴートになる可能性も含めて、バフェットは先を読んでいるのではないだろうか。
さらに、バフェットの投資戦略の成功を裏付けるファクトが報告書では示されている。
2022年の上半期で、NYダウが3万6000ドル台から2万9000ドル台までおよそ2割の下落相場となった。
にもかかわらず、米国中心の世界的な公益事業株式相場(電力、ガス、水道等、日常生活に不可欠な公共サービス)に乗り換えることで、スケールメリットも伴って、市場の一般的な下落方向とは逆に、高いパフォーマンスを上げている。
バフェットの狙い通りと言えよう。
リーマン・ショック後、世界がこぞって金融緩和、量的緩和を推し進めた時期、要するに「金利がタダ」同然であった時代だったからこそ台頭し、米国株式市場を強力に牽引してきた代表が前述のFAANGだった。
たしかに彼らはITの新しいサービスモデルを核にした情報技術株式相場を盛り上げたが、2022年においては20%近くも値崩れした。
この流れからも、資産株(ただし資産株である公益株は、米国債と配当利回りに着目して
おく必要がある)である資源・エネルギー株(石油、天然ガス関連)が今後、数年間は、米国株式市場を牽引していくことになるだろう。
バフェットが2年ぶりにキャッシュ・ポジションを高めにし、5兆〜6兆円ものマネーを
米国株式市場に注入している。
ご存じの方も多いだろうが、彼と繫がっているのは実は、中東の富豪たちである。
ということは、中東からもビッグマネーがバフェットと同じようなアングルで米国株式市
場に入ってくるのだろうとの予測が立つ。
実際には、バフェットが買ったから、その銘柄のポジションが上がるのではない。
実はバフェットが中東の富豪たちに「石油関連株とヒューレット・パッカード(HP)を買うよ」と電話し、「我々もそうする」というような流れができているからだろう。
2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
来場登録受付中>>
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】