【防衛大OBの実録】怒らせてはいけない上級生に呼び出され…「お前らは『ほうれんそう』の意味を知っているのか?」⇒戦々恐々のなか、同期がぶち込んだ「何もかも間違った回答」

【防衛大OBの実録】怒らせてはいけない上級生に呼び出され…「お前らは『ほうれんそう』の意味を知っているのか?」⇒戦々恐々のなか、同期がぶち込んだ「何もかも間違った回答」
(画像はイメージです/PIXTA)

学費無料、衣食住完備、毎月約12万円(令和5年)の学生手当が支給される上に、年2回のボーナスまである防衛大学校。その学生生活は「生き残る」という表現がふさわしいほどハードですが、防大OBエッセイスト・ぱやぱやくん氏は「防大には独特なユーモアや面白さがあり、一般社会では味わえない経験が心に強烈に焼きついている」と言います。ぱやぱやくん氏の著書『今日も小原台で叫んでいます 残されたジャングル、防衛大学校』(KADOKAWA)より一部を抜粋し、在学当時のエピソードを紹介します。

もはや名物?春に多発する“ご法度”、「同期のバーゲンセール」

■上級生「お前の制服はなんで汚い!」⇒正直に答えたら「同期を売るな!」

防大生活においてやってはいけないことの一つに、「同期を売る」という行為があります。これは自分のミスを誰かのせいにする、同期のミスをバカにするなどの行為が該当します。

 

たとえば、上級生に「清掃が終わってないじゃないか」と指導されたときに「ここの担当は私ではなく佐藤学生です!」と釈明する、同期に制服を汚され上級生に「お前の制服はなんで汚い!」と指導されたときに「井上学生にミートソーススパゲティをこぼされました!」などと正直に話すと、「同期を売るな!」「人のせいにするな!」と烈火のごとく怒られることがあります。

 

もちろん、明らかな不正行為を庇う必要はまったくなく、報告する必要があります。しかし、同期の日常のチョンボミスをわざわざ言うような学生は「簡単に同期を売るな!」と厳しく指導され、売られた同期からも「あいつは俺のことを売ったな…」と評価が下がり、相互不信につながっていきます。

 

とはいえ、生活に余裕がなく精神的に切羽詰まっている1学年は、「怒られたくない」という感情から、ついつい同期を売ってしまうことが多いのです。

 

上級生に指導され、原因を問われたときに「これは平井学生が担当すると言っており」と同期の名前を出し、同期に売られた平井くんは「これは高橋学生の指示により」とさらに同期の名前を出します。

 

■「同期の大バーゲンセール」というパワーワード爆誕の瞬間

私が1学年のときの中隊は同期を大安売りする学生が多く、同期の価値が暴落し、戦後のドイツマルクのように紙切れ一枚ほどの価値になりました。この状況を見かねた4学年は、点呼後に1学年を集め、戒めの発言としてこう言いました。「お前らは同期を安く売りすぎなんだよ! 勝手にバーゲンセールするな! お前らの団結は売れ残りのワゴンセールか!」と。

 

私はこの「同期を売る」から生まれた「同期のバーゲンセール」という言葉が非常に好きになり、同期を売っている1学年を見るたびに「う〜ん、これぞ防大春の大安売りセール」と呟いていたのでした。

同期は売るな、「ほうれんそう」を売れ

■同期の大バーゲンセール中、絶対に怒らせてはいけない上級生に呼び出され…

同期の大バーゲンセールが発生し、同期の団結が乱れていたある日、4学年のSさんが中隊の1学年を日夕点呼後に集会室へ集合させました。このSさんは大男で顔が怖く、「あの人だけは怒らせてはいけない」と恐れられている存在でした。

 

集められた1学年は戦々恐々としつつ、Sさんの話は始まりました。

 

まず話は「なぜ同期のせいにすぐするのか?」から始まり、「どうすれば連携ミスがなくなるのか?」という流れになりました。Sさんは淡々と話をしていますが、瞬間湯沸かし器のようなところが少しある方だったので、「いつ激怒するか分からない」という緊張感が集会室には漂っていました。

 

Sさんは私たちにこう質問をしました。「そもそも、お前らは『ほうれんそう』(報連相)の意味を知っているのか?」と。すると、同期の1人が元気よく手を挙げて「存じております!」と言い、Sさんは「よし言ってみろ」とその同期のUを指名しました。Uは「好きなタイプは?」と聞くと「う〜ん、僕は『こんごう』かな」と海上自衛隊の護衛艦タイプを答えるマニアで、いつもよく分からないことばかり語っている奴でした。

 

■同期U、緊迫した集会室に“一味違う回答”をぶち込む⇒「笑ってはいけない空間」突入

もちろん、私たちは「報告・連絡・相談とUは答えるだろうな」と考えていましたが、彼は一味違う回答をしました。「はい! 『ほうれんそう』とはタマネギ科の植物であり〜」となぜか「ほうれん草」について説明を始めたのです。

 

緊迫感溢れるミーティングで46センチ砲に匹敵する回答をした同期に対し、1学年は「爆笑したい」と「笑ってはいけない」のせめぎ合いで身体が震えました。「この文脈で野菜の話をしないだろ!」と突っ込みたくて仕方がなかったのですが、Sさんは一切笑わずに「違う」とスルーしたため、笑うことができませんでした。

 

 

後日、ほうれん草について調べてみると「ヒユ科」であり、そもそも「タマネギ科」は存在しなかったことに我々は気がつきました。つまり、その同期は何もかも間違った回答をしていたのです。Sさんの「違う」は「ほうれんそうの解説」だったのか、「植物の分類」だったのかは未だに分かっていません。

 

 

ぱやぱやくん

防衛大学校卒の元陸上自衛官。退職後は会社員を経て、現在はエッセイストとして活躍中。名前の由来は、自衛隊時代に教官からよく言われた「お前らはいつもぱやぱやして!」という叱咤激励に由来する。著書に『今日も小原台で叫んでいます 残されたジャングル、防衛大学校』『陸上自衛隊ますらお日記』(どちらもKADOKAWA)などがある。

 

 

※本連載は、ぱやぱやくん氏の著書『今日も小原台で叫んでいます 残されたジャングル、防衛大学校』(KADOKAWA)より抜粋・再編集したものです。

今日も小原台で叫んでいます 残されたジャングル、防衛大学校

今日も小原台で叫んでいます 残されたジャングル、防衛大学校

ぱやぱやくん

KADOKAWA

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