相続トラブルの種は、あらゆるポイントに潜んでいる
相続トラブルにおいて、揉めるポイントは多数存在します。遺産分割協議がまとまらないと金融機関の解約もできないのに、相続手続きにはお金がかかる。そんなところからも、感情的なぶつかり合いが生じてしまいます。
また「家を長男・長女が継ぐ」という昭和の古い価値観と、「法定相続」というきょうだい平等な相続制度との対立もあります。
相続財産に「不動産」が絡むと、不動産の評価額をどうすべきか意見が分かれ、大変です。不動産を取得する側は低い評価額を主張し、不動産の代わりに代償金を受け取る側は高い評価額を主張するという対立も生じます。
法律自体も、相続人がどの割合で相続するのかという「割合」を定めているだけで、「だれが、どのように分けるのか」という点までは決めてくれません。
このように、相続トラブルの火種はいたるところに転がっています。
「遺言書作成」が、相続トラブルを抑制するワケ
さて、そんな相続トラブルを防ぐには、どのような手段をとるべきでしょうか?
結論からいうと「遺言書を作成しておく」ことが有効です。いまの法律では「法定相続制度」という相続財産の分配割合だけを決めており、具体的な分け方まで決めてくれているわけではありません。しかも、全員の合意による「遺産分割協議」が整わないと完全終結させることができないのです。
つまり、相続人のうち、たった1人でも「NO」といえば、完結することができない制度になっています。
しかし、遺言書があれば「どの財産を、どの相続人に取得させるか」という具体的な取り決めをおこなうことができます。仮に、相続財産に不動産等が含まれており、きっちり分割できない場合でも、基本的には遺言書の内容どおりに相続手続きを完結させることができます。
それだけでなく、その遺言書の内容通り、相続財産を取得する方や「遺言執行者」に指定された遺言書を実現する立場の方なら、一方的に手続きを進めることが可能です。
また、相続財産の分配割合も遺言者の意思によって動かすことができます。とはいえ、配分の偏りが大きすぎる場合は、法定相続分の2分の1の取得額より低い相続人は「遺留分」という制度によって金銭請求できることになっています。
「『遺留分』の問題が残るから、遺言書があっても、トラブルはなくならないじゃないか!」という声も聞こえてきそうですが、その通り、確かにゼロにはなりません。
ただ、ゼロにはならないものの、大幅にトラブルを減らせることは確かです。相続手続き全体が未解決になることと、遺留分の問題が残るのとでは、圧倒的に遺留分の問題だけのほうが、解決しやすいといえるでしょう。
遺留分の問題は、相続手続き完了後に金銭の調整だけが残るのに対し、相続手続き全体が未了となれば、不動産の名義変更も預貯金の解約もできないという、非常に面倒なトラブルが残ってしまいます。
遺言書作成の重要ポイント
このように、非常に大切な遺言書ですが、作成の重要なポイントを2つお話します。
①遺言執行者を決めておく
まず、1つ目は、遺言書を作成する以上、誰か相続人の代表が「単独で」手続きをとれるように、その代表の方を「遺言執行者」という形で指定しておくことです。
遺言執行者とは、相続人であっても、相続人とは別個の「遺言書の内容通りの財産の分配を実現する権限」をもった人のことです。厳密には、弁護士、司法書士等の法律の専門家である第三者でもよいのですが、そういった専門家に相談しているケースばかりではないと思います。したがって「相続人の代表者を遺言執行者に指定しておく」と覚えていただければと思います。
この遺言書を作成するというメリットのひとつとして、誰かが単独で手続きを完結しうるというのが非常に大きなポイントです。「単独の権限で相続手続きを完結できる方」がいれば、相続手続きは非常にスムーズになるからです。
「相続人の代表として手続きするなんて、大変そう…」などと不安がらなくて大丈夫です。「遺言執行者」という立場の方が、専門家に代理を依頼して手続きすることも可能です。
②公正証書遺言を作成するか、法務局の保管制度を利用する
2つ目のポイントは、公証役場で作成する公正証書遺言を作成するか、自筆証書遺言であれば法務局の保管制度を利用することです。
一般的に、費用をかけない方法として自筆証書遺言が紹介されています。しかし、単なる自筆証書遺言は、内容が曖昧になりがちで、余計なトラブルを招くリスクがあることに加え、そもそも自筆証書遺言自体が見つからず、相続人間の不信感を招くというケースもあります。要は、誰かが遺言書を捨てた、隠したなどのトラブルが発生するということです。
このように困った問題を抱える自筆証書遺言であっても、法務局の保管制度を利用すれば、少なくとも「破棄される」「見つからない」といった事態は避けることができます。
ベストなのは、公正証書遺言です。専門家のサポートや公証役場への費用は発生しますが、内容的な曖昧さのない遺言書を作成することができるからです。費用を抑えたいのであれば「自筆証書遺言+法務局の保管制度」を利用するといいでしょう。
相続トラブルになれば、遺産の分配で不満が残ることはもちろん、大切な親族との関係が壊れることになりかねません。後悔やしこりを残すことなく、円満な相続を実現するためにも、遺言書の活用を検討してみてください。