「ベルトの買い替え」から読み解く…税制の歪な姿
マルコがベルトを購入したのは、世界中で一日に何億万回もおこなわれているオンライン取引のひとつにすぎない。
インターネットやeコマースが普及するまでは考えられなかったことで、以前なら、マルコは店に行き、在庫のあるなかからベルトを選び、レジで金(かね)を払う必要があった。
マルコにとってのかつての買い物はオールイタリアン(売り手も買い手もみなイタリア人、加えて、代金の一部が税金としてイタリア政府に入る)だった。
いまはもちろん、第4の当事者がかかわっている。マルコは、グーグルがなければ、アスカーニ家のことを知らなかったかもしれない。アスカーニは、広告のクリック1回につき約0.11ユーロをサービス料として支払っている。1回の販売が成立するまでに、平均すると約36回のクリックが必要だという。
つまり、ベルトが一本売れるごとに、アスカーニはグーグルに3.96ユーロ、つまりベルトの販売価格のおよそ10%を払うことになる。
俯瞰して見てみると、グーグルも、アップル、アマゾンなどの同業者も、自分たちのオンライン領地を通過する取引(トラフィック)に対する徴税者として設定されているのだ。
21世紀のいま、これら巨大企業の少なくとも1社に定期的な支払いをおこなわずにビジネスを展開することは事実上不可能になった。
中小企業はこのようなレンティエ資本主義(各種財産へのアクセスを独占し、社会に貢献せずに大きな利益を得る経済的慣行)に反発し、アップストアやグーグルの「検索」ページのようなオンライン市場の所有で得られる独占的な力を批判的に見ている。
一方、これはオンラインでビジネスをおこなう上で避けられない単なるコストにすぎないという意見もある。
あなたの意見がどちらであれ、グーグルがマルコの買い物や膨大な件数の取引から日々抜いていく分よりも怪しいのは、グーグルが税金として払っている分だ。
マルコの取引で各当事者が払う税金はこんな具合だ──アスカーニは、デジタル時代以前と同じ22%の付加価値税(VAT)をイタリア政府に、マルコは収入の41%を所得税としてイタリア政府に納めている。
だが兆ドル企業であるグーグルは取引あたり0.7%という驚異的に低い税率の税金しか払っていない。なんと少ない負担だろうか。
イタリアがグーグルに特別な免除を与えたわけではない。イタリアの法律では、国内のすべての法人所得は24%の率で課税される。だがグーグルはあちこちにレバーとハンドルのついた複雑怪奇なシステムを組みたて、イタリアの帳簿から利益をずらしているのだ。
アスカーニがグーグルに払う3.96ユーロは、税率がはるかに低いアイルランドにあるグーグルの子会社で集金される──こんなトリックはほんの手始めにすぎない。