(※画像はイメージです/PIXTA)

厚生労働省が2023年7月4日に発表した2022年「国民生活基礎調査」の結果によると、子どもがいる世帯数が初めて1,000万世帯を下回りました。6月の「人口動態統計」でも出生数が80万人を下回っており、少子化がさらに進行する見通しです。要因の一つに「お金」の問題があるとみられています。そこで、本記事では、現行制度における子育ての「お金」をサポートする制度、およびその課題について解説します。

子育てを経済的にサポートする給付の制度

子育てを経済的にサポートする給付の制度で、主要なものは以下の6種類です。

 

【子育てに関する給付の制度】

 1. 出産育児一時金

 2. 出産・子育て応援給付金

 3. 出産手当金

 4. 育児休業給付金

 5. 児童手当

 6. 高等学校就学支援制度

 

それぞれについて概説します。

 

◆1. 出産育児一時金

「出産育児一時金」は、女性が出産したら、子ども1人あたり一時金として50万円を受け取れる制度です。

 

国民全員が加入している健康保険(サラリーマンは被用者保険、個人事業主等は国民健康保険)から支給されます。

 

2023年3月以前は42万円だったのが、4月から50万円に増額されました。その背景には、出産費用が年々上昇してきていることがあります。

 

◆2. 出産・子育て応援給付金

「出産・子育て応援給付金」は、女性ならば誰でも「妊娠届出時」と「出生届出時」にそれぞれ5万円相当の「クーポン」あるいは現金を受給できるものです(合計10万円相当)。

 

2023年1月1日から施行されたものです。

 

施行は2023年1月からですが、2022年4月以降に出産した人も受給できます。

 

◆3. 出産手当金

「出産手当金」は、サラリーマン(会社員・公務員)が加入する「被用者保険」に固有の制度です。個人事業主・フリーランスの人は受け取ることができません。

 

女性が、出産日(出産が予定日より後になった場合は、出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産日の翌日以降56日までの間に、産前・産後の休業を取得し、給与の支払いがなかった場合に、申請により、給与額の67%(約3分の2)の額を受け取れます。

 

◆4. 育児休業給付金

「育児休業給付金」は、男女問わず、「育児休業」を取得した場合に、サラリーマンが加入している「雇用保険」から給与の67%(約3分の2)を受け取れる制度です。

 

育児休業給付金は、男性が「産後パパ育休」を取得した場合も受け取れます(出生時育児休業給付金)。

 

育児休業を取得し育児休業給付金を受給している間は、社会保険料の納付義務がありません。

 

2023年3月に岸田首相が67%から80%へと引き上げる考えを表明しました。実現すれば、手取りのほぼ10割が確保されることになります。

 

ただし、引き上げの時期は現時点では未定です。

 

◆5. 児童手当

「児童手当」は、中学校3年生以下の子を養育している人が、子ども1人あたり1ヵ月10,000円~15,000円を受け取れる制度です。

 

ただし、現状、所得制限が設けられています。これは「世帯主」の「所得」と「親族の数」を基準としており、「所得制限限度額」と「所得制限上限額」の2段構えになっています。

 

まず、第一段階として、世帯主の所得が「所得制限限度額」を超えると、一律月5,000円の「特例給付」のみ受給できます。

 

次に、第二段階として、「所得制限上限額」を超えると1円も受け取れなくなります。

 

この所得制限には以前から根強い批判があり、政府は、所得制限を撤廃する方向を示しています。また、高校生にも月1万円を給付することや、第3子以降(厳密には、高校卒業年度までに養育している子のうち3番目以降という縛りがある)は0歳から高校生まで3万円に増額することが示されています。

 

ただし、他方で、財源確保のため、高校生を対象とする「扶養控除」の廃止も検討されているなどの問題があります。

 

◆6. 高等学校等就学支援制度(高校等の授業料の実質無償化)

「高等学校等就学支援金制度」は、高校等の授業料を「実質無償化」するものです。

 

この制度には所得制限が設けられています。具体的には、「両親」の収入の合計額を基準として、以下の計算式で算出した額が、「30万4,200円未満」であることが要求されています。

 

(保護者の市町村税の課税標準の額)×6%-(市町村民税の調整控除額)

 

文部科学省「2020年4月からの『私立高等学校授業料の実質無償化』リーフレット」より
【図表】世帯の年収目安と支給上限額 文部科学省「2020年4月からの『私立高等学校授業料の実質無償化』リーフレット」より

 

現行の「少子化対策」の課題

以上が、子育てを経済面でサポートする主要な公的制度です。しかし、国の少子化対策については、従来から以下の課題が指摘されてきています。

 

・「妊娠・出産」「初期の子育て」のサポートに偏重している

・育児と仕事を無理なく両立できる環境が整備されていない

・教育費の負担が増大している

 

◆「妊娠・出産」「初期の子育て」に偏重している

まず、「妊娠・出産」「初期の子育て」に偏重しているということが指摘されています。

 

「児童手当」については、中学生までしか受けられない点、所得制限がある点が批判されてきました。しかし、前述のように、対象を高校生まで拡大し、所得制限を撤廃する方向が示されています。

 

◆育児と仕事を無理なく両立できる環境が整備されていない

次に、育児と仕事を無理なく両立できる環境が整備されていないとの指摘があります。

 

特に、育児の負担が女性に偏りがちです。また、男性の育児休業取得率も13.97%と著しく低い状態です。

 

男性(父親)も女性(母親)もともに、育児と仕事を無理なく両立できるようにする環境の整備は急務です。

 

また、現状、個人事業主・フリーランスの人には、サラリーマン(会社員)の「出産手当金」「育児休業給付金」に相当する制度がありません。制度の構築が急務であるといえます。

 

◆教育費の負担が増大している

最後に、教育費の負担が高騰し続けていることが挙げられます。

 

教育費は年々高額になってきています。私立大学の授業料の平均値は、2001年の年799,973円だったのが、2021年には年間930,943円と、16%以上も増えています(文部科学省「私立大学等の令和3年(2021年)度入学者に係る学生納付金等調査」参照)。

 

他方で、国民の所得は増えていません。そうなれば、教育費の負担は以前よりもますます増大していくことになります。

 

そのうえ、近年は物価上昇や増税が相次いでいます。老後不安の問題もあり、子どもを育てる以前に、自分が食べていくので精いっぱいという状況におかれた人が増えています。

 

これら3つの問題点は、いずれも長らく指摘され続けてきているものです。これは、出産・子育てを経済面でサポートする各種の公的制度が、現状ではまだ問題の解決に対して十分に機能していないことを意味します。

 

たとえば、育児休業・育児休業給付の制度を現状より充実させたとしても、男性が取得しづらい実態を改善しなければ、効果が低くなってしまいます。

 

また、少子化対策を充実させるための財源について、どのような形で賄うかという問題もあります。その態様・程度によっては国民の負担が大きくなり、かえって少子化対策の妨げになるリスクもあります。

 

個々の制度を拡充させることに加え、全体を有機的に機能させ、実効性をもたせることが求められています。

 

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