(※画像はイメージです/PIXTA)

企業・政府・市民。かつてその均衡は保たれていたが、近年、企業は株価を上げることに苦心し、損失を税金による救済で賄うようになった。なぜこのような資本主義の負の側面が露呈したのか? 新たな経済を構想することは可能なのか。情報政策の専門家、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー『未来化する社会』の著者であり、イノベーションに関する世界的な専門家のひとりであるアレック・ロス氏の著書『99パーセントのための社会契約』(早川書房)から一部抜粋転載して紹介します。

権威主義と力を振りかざす中国の社会契約

世界ではいま、発展途上国がこの2020年代とそれ以降に向けて豊かになっていくために、どのような社会契約を採用するかを選択する時期に来ている。選択肢として代表的なのは世界の大国であるアメリカと中国のモデルだ。

 

アメリカは長らく先進国のゴールドスタンダードだった。社会契約に生じた歪みを正せば、今後も他国が目指す国家でありつづけられるだろう。

 

建国以来、アメリカ政府は、国民のさまざまなニーズに応えられる柔軟さと、政府の行きすぎを防ぐためにも幾重もの抑制と均衡を備えた非効率さを併せもってきた。その結果、人間の自由と安心な暮らしを両立させ、世界中のほとんどの人から評価される枠組みをつくりあげた。

 

だが最近のアメリカの苦悩する姿は、アメリカの将来と枠組みについて、さらには根幹をなす民主主義と力強い資本主義は果たして融和していけるのかについてまで、世界の人たちに疑念を抱かせることになった。

 

中国モデルへの関心を途上国が募らせているのは、まさにこうした疑念が根幹にあるからだ。中国モデルにはぶれがない。急速な経済成長と上層部の断固とした行動に基づき、党の目標に沿うように企業と国民を動かしてきた。

 

だが、中国の社会契約は、権力者が力を乱用するのに好都合にできている。何世紀も変わっていないように見える古い社会契約のままで、国民は政府の舵取りについてほとんど何も言うことができない。

 

中国はこれまで、数十年にわたってめざましい経済成長を遂げながら、社会契約を機能させてきた。経済の開放に伴って国民の生活の質は劇的に向上したし、中国政府の鉄の支配体制が、ゼロ年代から2010年代にかけて多くの国々を揺さぶった経済変動から国を護ってきたのもたしかだ。

 

だがもし、中国の成長が停滞したり、下降したりするようなことがあれば、暗黙のうちに結ばれていた社会契約に綻びが生じる可能性がある。

 

中国の人たちは、成長と安定した生活を手にする代わりに大きな自由を手放した。成長と生活が失速すれば、この社会契約は国民の多くにとって非常に不利になりはじめる。そうなると、政府主導の社会契約を維持するには国が権威主義と力を振りかざすしかない。

 

アメリカはいま、同じ西側民主主義国のよいところを参考にしつつ、自国のモデルを刷新する必要性に迫られている。アメリカのモデルを改良できなければ、世界の多くの国は、一般国民の力を削ぐ権威主義的なモデルへ吸い寄せられてしまうだろう。

99パーセントのための社会契約

99パーセントのための社会契約

アレック・ロス

早川書房

なぜ株価は上がっているのに、好景気の実感がないのか。 企業・政府・市民。かつてその均衡は保たれていたが、近年、企業は株価を上げることに苦心し、損失を税金による救済で賄うようになった。なぜこのような資本主義の負の…

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